〜隣のおじいさん〜
柔らかい光に映るおじいさんの影
大好きな椅子に腰掛けて
おじいさんが テレビをみています
コンコンコンと窓を叩くと
それを合図におじいさんはドアを開けてくれます
『やっと 会いにきてくれた!私の小さなお友達!』
おじいさんはそういって 私を抱きしめてくれます
『今日のカブズはだめだね。君は野球は好きかい?』
おじいさんはスポーツが大好きで 初めておばあさんと出会ったのも
野球を観戦している時の事だったと毎回嬉しそうに話してくれます
おじいさんはお話が大好きで いろんなお話を聞かせてくれます
小さかった時の事、戦争の事、自分のお家を建てた時の事、お金がなかった時の事、家族の事
おじいさんはふとした時に おばあさんの話もしてくれます
初めておばあさんに会ったときの事
初めてデートに行った時の事
おばあさんがその時着ていたドレスや髪型
おじいさんが軍隊でいろんな場所に行った時
おばあさんは何もかも残しておじいさんについてきてくれた
おじいさんは嬉しそうに教えてくれます
おじいさんとおばあさんに家族ができて
とても幸せな日々を過ごしていました
5人の娘達は 大きくなって みんなお嫁にいきました
子ども達のいない寂しい家
でも おじいさんとおばあさんは 二人で幸せに暮らしていました
月日はどんどん過ぎてゆき ある日 おばあさんの体がいう事をきかなくなりました
おばあさんはシルバーホームに入ります
おばあさんは ある日『あなた...お家に帰りたい』とおじいさんにお願いしたといいます
おじいさんは動けないおばあさんを連れて二人の家へ戻ってきました
おじいさんは動けないおばあさんを一生懸命お世話したと言いました
おばあさんの体には管やワイヤーが取り付けられ 容態を知らせるモニターが一日中作動していたと言います
おじいさんはおばあさんにご飯を食べさせ、体を拭いてあげたり、おむつを替えてあげたり
一生懸命看病しました。おばあさんはおじいさんに『ごめんなさい』と何度も何度も悲しそうに言ったといいます
『大丈夫。僕たちはパートナーだから。愛しているよ。』おじいさんはおばあさんに言ったといいます
おばあさんの体は 日に日に力を失い ある日 おばあさんはご飯を食べる力も失ってしまいました
『天国に帰るんだね』とおばあさんの手を握り悟ります
大好きな人とのお別れが日に日に近づく事を感じながら生きるのがつらく
おじいさんは『なぜなんだろう...』と隣の部屋で声を殺して泣いたといいます
おじいさんは テレビから目を離す事も無く おばあさんの事を語ります
ピンクの椅子を指差して 『彼女が最後に座った椅子さ』と懐かしそうに言いました。
眼鏡に溜まった涙もそのままに『I will do it again 』もう一度、おばあさんと一緒に同じ人生を送りたい。
おじいさんは静かに笑っていいました
おばあさんが大好きだから、嬉しい時も、悲しい時もいつもおばあさんが隣にいた事
二人の思い出と愛が おじいさんの力になりました
おばあさんはおじいさんの暖かい腕の中で静かに眠りにつきました
『冬は夜が長いから、いろんな事を考えてしまうんだよ。』おじいさんは困ったように笑います
きれいに片付けられたおじいさんの家
おじいさんの椅子の周りだけ おばあさんからもらったカードや手紙でいっぱいです
おじいさんのランプの下には 茶色く色あせた幸せそうな二人の写真がいつもあります
愛する事の大切さ 愛される事の大切さ
いつか 子ども達が大きくなった時、おじいさんと同じ気持ちで大好きな人と一緒に人生を過ごせますように
『あなたと一緒で本当によかった』と言える人をみつけられますようにと
心から願った夜でした