〜理解できる言葉で〜
「先生〜さとちゃんが叩いた〜!」と、私に助けを求めるように5・6歳児の子ども達がやってきます。 叩かれた園児は、大きな声でわんわんないています。理由を聞くと、自分の脱いで置いた靴を隠された、といいいました。 3歳児の子ども達も年長さんの大騒ぎに「なんだろう?」と、様子を見に来ています。泣いている子どもを片手で抱っこしながら、「どうしたの?何があったの?」
と聞くと、「だって、ここに置いたら邪魔でしょ。だからむこうに片付けたの!それを盗んだっていって・・・ひどい・・・。だから・・・・(叩いたの。)」と、小さな声で教えてくれました。その声を聞いたまわりの子ども達は、「でも、叩いちゃだめだよ。」「お友達痛がっているよ。お靴邪魔だよ、って教えてあげればいいんだよ。」「片付けるよって、言えばよかったのに。」「お友達、叩くと、びっくりしちゃうよ。」と、優しく叩いた子どもにアドバイスする子ども達がいます。その一方で、「片付けてくれたんだから、ありがとうしなきゃね。」「盗んだなんて言ったらだめだよ。」
「間違っちゃったんだよね。でも、盗んだって言われたら悲しいよ。」と叩かれて泣いているお友達に諭す子ども達も。「じゃあ、二人とも、ごめんね、って言ったら?」このように、周りに様子を見に来てくれていた子ども達が状況を把握し、いざこざを起こしている当事者の気持ちを言葉に表す事を手伝い、励ましの言葉をかけてくれていました。 3歳児の子ども達も、そんなお兄さん・お姉さん達を心配そうに見守っていました。
お友達を叩いたり、欲しい物を奪い取るなどの行動は、気持ちを相手に伝える事が出来なかったり、自分では伝えたつもりでも、相手が理解してくれない時に、出てしまう行動です。この行動は、自我の芽生えと共に、お友達や環境を自分の遊びに取り込んで遊び始める時期(2−3歳児)に、相手に気持ちを伝える事に慣れていなかったり、また、相手の気持ちを考える事がまだ出来ない為によく見られます。 もちろん4,5,6歳になっても歯がゆい気持ち、やりきれない気持ちがお友達を叩いてしまったり、物を投げつけてしまったりなどの行動となる事もあります。こんな時、叩かれてしまった子ども達に対し、「痛かったね。嫌だよね。叩かれちゃ...」とそばに寄り添い、なぐさめてあげる事も大切です。そしてそれと同様に大切な事が、叩いた子どもへの接し方だと思います。 「
そっか、このおもちゃが欲しかったんだね。」と、叩いてしまった子どもの気持ちを受け止めている事を表す事が大切です。「でも、叩いちゃったら、お友達は、どんな気持ちかな?OOちゃんも、どんな気持ちかな?どうしたらいいと思う?」
などと子どもに叩く以外で、何か別の方法が無いか一緒に考えつつ、「あ、先生、あのおもちゃ欲しいんだ、XXくん、貸して。」と、自ら行動を起こし、ヒントを与えます。子どもが、そのヒントを頼りに「貸してって言えばいいんだ。」と答えを導きだせたら、「よく、考えたね。今度は、そうしてみたら、お友達、なんて答えたか教えてね。」と褒めてあげます。でも、みつからない場合は、「よく、頑張って考えてみたね。ねえ、貸して、ってお友達に伝えるのは、どうだろう?」と、指示を出すのではなく、アドバイスをするという形で教えてあげるといいのではないでしょうか。
私も現地の幼稚園で教えていた経験があるのですが、現地の幼稚園では、「叩いた人が全面的に悪い。」
と、理由も深く追求せず叩いた子どもに対し、タイムアウト{反省の時間、集団から離され、いすに座ったりする}、注意を受けたりしていました。文化の違いからかもしれませんが、子ども達が叩かれ、けがでもしたら保護者から告訴される恐れもあり、先生達も叩く前、トラブルが起こらないように環境を管理していました。 それでも子ども達同士でのトラブルは起こるものです。 その時、子ども達の分かる言葉で自分の言い分をきちんと伝えられるか、伝えられないかでは、子ども達の心の発達に大きな影響を与えます。「自分は悪くなかったのに・・・どうして怒られないといけないんだろう?」
と、子ども達の疑問にもその場で対処する事はとても大切な事だと思います。
幼児期はお友達作りをする大切な時です。そのお友達作りに必要なのはしっかりとした言語です。 第一言語をしっかりと子ども達に身につけさせると言う事は、子ども達に自信を与える事なのです。 子ども達が慣れ親しんだ言葉で、お友達と遊んだり、まねっこしたり、けんかしたり、なぐさめあったり、おしゃべりしたり、そんな機会を大切にしていきつつ、子ども達の成長を見守っていけたらいいですね。