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10-2019

ハッピーエンドにならなかった大リーグ投手の死

メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスがシアトル・マリナーズにヒットを1本も打たれることなく、13対0で大勝したのは7月12日のことだ。野球界では「ノーヒットノーラン(無安打無得点試合)」と呼ばれる偉業。打線が初回に一挙7点を奪う猛攻を見せると、先発のタイラー・コール投手が2イニングを、フェリックス・ペーニャ投手が3回以降を抑える。エンゼルスタジアムに集まった地元ファンを熱狂させた。
 
実はこの日はタイラー・スカッグス投手の追悼試合として開催されていた。11日前の7月1日に遠征地のテキサスで同投手が急死したのだ。集合時間になっても同投手が姿を見せないことを不審に思い、球団のセキュリティー担当が部屋に入って確認したところ、すでに死亡していたという。予定されていたレンジャーズ戦は中止となった。2日に行われた記者会見ではエンゼルスのブラッド・オースマス監督や同投手と同じ2009年にドラフトされたマイク・トラウト外野手らが涙ながらに故人の思い出を語った。
 
7月12日の試合は同投手が亡くなって最初のホームゲーム。球場のメインゲートの外にはファンからの献花や惜別のメッセージが寄せられた。球場内の外野フェンスには同投手の雄姿が描かれ、マウンド後方には同投手の背番号「45」が記された。始球式には同投手の母・デビーさんが登場。ソフトボール選手として鳴らした肩で力強いボールを投げた後、空を見上げ、27歳の若さで逝った息子に祈りを捧げるように両手を合わせる姿が涙を誘った。この日は選手全員が背中に「SKAGGS 45」と入ったユニホームでプレー。スカッグス投手のための試合だった。
 そして、結果はまさかのノーヒットノーラン。勝利の直後、選手たちはダグアウトからマウンドに向かい、かつて同投手が立った場所に脱いだユニホームを置いた。映画やドラマのような感動のシーンが展開された。
 
ハッピーエンド。のはずだった。しかし、物語はここで終わらなかった。
 
およそ2カ月後に公表された死因は、吐しゃ物をのどに詰まらせての窒息死。同投手の体内からはアルコールと、フェルタニン、オキシコドンが検出された。後者2つは医療用麻薬オピオイドの成分。リーグが使用を禁じている薬物だった。それだけではない。スカッグス投手の遺族がチーム内に薬物を提供した人間がいたとして弁護士を立てて球団を告訴する準備を進めていることも判明した。
 
急転。あの日の涙、感動はなんだったのか。
 
さらにその1カ月半後の10月上旬、状況が悪化する。米麻薬取締局の取り調べを受けたエンゼルスの広報担当エリック・ケイ氏が同投手に薬物を提供し、一緒に乱用していたと話したというのだ。スポーツ専門局ESPNによるスクープ。チームがテキサス遠征に出る2日前に不法に入手したオキシコドンの錠剤6つのうち3つを同投手に手渡した。その資金は同投手から出ており、長年にわたって依存状態にあったとも証言したという。当然のことながら、球団は「それらの話はこれまで一切、聞いていない」と完全否定=B億単位の賠償金が発生すると言われている。まさに泥沼化の様相を呈している。
 
子を失った親の気持ちは分かる。しかし、とも思う。もしケイ氏の証言が事実だとすれば、スカッグス投手にメジャーリーガーとしての自覚、社会の模範にならなければいけないという責任感はなかったのか。アルコールとドラッグを同時に摂取することの危険性も知っていたはずだ。アルコールや薬物の依存から抜け出す考えはなかったのか。そんな疑問が次々と浮かんでくる。
 
感動の後に待っていた悲しい結末。清く、正しく生きることの大切さを改めて考えさせられた。


 
     
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