メジャーリーグ、シカゴ・カブスのベン・ゾブリスト選手がストライク判定システムの導入を訴えたのは8月12日の試合後のことだ。
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ストライク判定システム導入を訴えたゾブリスト選手 |
敵地チェースフィールドで行われたアリゾナ・ダイヤモンドバックスとの試合。0−6の9回に2点を返し、なおも2死一、三塁の場面で打席に立った同選手はカウント2−2から自信をもって見送った低めのカーブをストライクと判定された。
球の軌道は明らかにストライクゾーンの下。不可解な三振で最後の打者となったベテランは呆然。ジョー・マドン監督はベンチからフィールドに飛び出し、「WHAT!?」と叫びながらマーク・ウェグナー球審に詰め寄ったが、判定が覆ることはなかった。
「あれは酷かった。僕の野球人生であの判定より嫌な気分になったのは2013年のやつだけ。特に試合終盤でああいうのはキツイ。頭の中が混乱するというか、ショックだった」
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審判批判を繰り広げたキンズラー選手 |
地元紙などの報道によると、試合後、9回の打席について問われたゾブリスト選手はこう続けたという。
「もしわれわれに何かを変えることができるとしたら、ストライク判定システムを導入することですね。どうしても人間は間違いを犯してしまいますから」
『ストライク判定システム』とは、ストライクとボールの判断を球場内に設置されたカメラを使ってコンピュータに委ねるというもの。
「勝敗を決する大事な場面であっても多分、今日のような気持ちにはならないだろうね」。
最後の言葉は審判への不信感の表れに他ならない。メジャー12年目の選手だからこそ、その発言はずしりと重いものだった。
その2日後の8月14日。審判への不満を爆発させた選手がいた。ゾブリスト選手と同じメジャー12年目、デトロイト・タイガースのイアン・キンズラー二塁手だ。
テキサス・レンジャーズとの一戦でエンジェル・ヘルナンデス球審のストライク判定に抗議し、退場処分を受けた。試合後も怒りの収まらない同選手はメジャーリーグ公式サイトなどの取材に対し、こう吐き捨てている。
「試合をめちゃくちゃにしている。彼は別の仕事を探す必要があるね」
痛烈な審判批判。ゾブリスト選手との大きな違いは、キンズラー選手がメジャー審判歴27年の大御所的存在を個人口撃≠オてしまったことだ。同選手の言動を問題視したメジャー審判員たちは、メジャーリーグ機構(MLB)が同選手に罰金を科しただけで、出場停止にしなかったことを不服として世界審判協会(WUA)を通じて遺憾の意を表すとともに再発防止を訴える意味を込めて今後は白いリストバンドをつけて試合に出場すると発表した。
言うまでもなく、試合の中での審判は絶対的な存在だ。きわどいタイミングのアウト・セーフの判定やホームランか否かなどは、ビデオで検証するようになったとはいえ、「審判=ルール」である。そこは野球のみならず、あらゆるスポーツに共通することだが、メジャーリーグの審判団が異例とも言えるアクションを起こした今回の理由は、リスペクトを欠く選手たちへの警告。裏を返せば、自分たちの立場に危機感を抱いているからではないかと筆者は推測する。
一方の選手たちは審判員に対してこう感じているのではないだろうか。「とてもプロのレベルに達しているとは言えない己の技量を棚に上げて何を言っているの?」と。
声明文が発表された19日の試合で審判員たちは左手首に白いバンドをして出場した。中にはリストバンドをしない審判員がおり、意思統一がなされていないのは明らかだったが、事態を重く見たMLB機構はロブ・マンフレッド・コミッショナーが審判員たちと話し合いの場をもつことを約束することで抗議行動≠ヘ1日で終わった。
そんな一連の流れがあったからだろうか、最近、メジャーリーグの試合を取材していて気になっていることがある。
それは選手と審判員との関係だ。以前は攻守交代時など、フィールド上で双方があいさつを交わしたり、雑談をしたりするシーンを見かけることがあったが、それがなくなってしまったような気がしてならないのだ。
前任のバド・セリグ氏に負けまいと、次々とアイデアを出して改革を推し進めているマンフレッド・コミッショナー。すでにストライク判定システムついても言及しており、近いうちに導入される可能性は高い。
ハイテクを駆使することで誤審を防ぎ、試合の質は向上していくのかもしれないが、かつてあった人と人とのふれあい、人間味がなくなってしまうことを寂しく思うのは筆者だけではないだろう。
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