日本から嬉しいニュースが飛び込んできたのは5月下旬のことだ。
プロボクサーの河野公平選手が現役続行を表明したというのだ。
昨年12月にWBOスーパーフライ級王者、井上尚弥選手に挑んで6回TKO負け。11月で37歳になるベテランの去就がずっと気になっていた。
思い出すのは1年半前、2015年10月にシカゴで行われたWBAスーパーフライ級タイトルマッチ。当時、チャンピオンだった河野選手は人気ボクサーの亀田興毅選手の挑戦を受けた。ボクシング史上初となるアメリカでの日本人同士のタイトルマッチ。日本から押し寄せた両選手の関係者やファンが日本語で応援合戦を繰り広げる異様な空気の中、両選手は12ラウンドを戦い抜き、結果、河野選手が3―0の判定勝ちを収めた。
さらに印象深い試合になったのは、試合終了後に亀田選手が現役引退を表明したからだ。
「俺、この試合終わったらやめようと思ってたから、うん、ボクシングを。この試合がラストマッチのつもりでやってたから、これ以上先はないですよ。この試合で終わりって決めてたから」。
日本選手初の3階級制覇の偉業を成し遂げた選手だった。しかし、テレビ局と組み、視聴率を上げるために弱い相手とばかり試合をすると揶揄されるなど、決していいイメージをもたれていなかった。それでもシカゴ発のニュースは瞬く間に日本に伝わり、大きな話題となった。
帰国後、亀田選手は青年実業家に転身することを宣言。テレビ番組に出演したり、「亀田興毅に勝ったら1000万円」と題したインターネット動画で素人相手にボクシングをして大きな注目を集めたり、はたまた、人気女性プロボクサーのトレーナーを務めたり、マルチぶりを発揮。ボクサー時代には見ることのなかった一面をのぞかせ、好感度を上げている。
話を河野選手に戻す。亀田戦の勝利から半年後の2016年4月、インタノン・シッチャムアン選手(タイ)にも判定勝ちを収め、3度目の防衛に成功した河野選手。しかし、同年8月に臨んだルイス・コンセプシオン選手(パナマ)との王座統一戦で判定負けを喫して王座を陥落。昨年末には井上選手にも完敗した。
ここまでの戦績は43戦32勝(13KO)10敗1分。勝率74・4%。勝った試合の3分の1が判定によるもの。数字だけではその強さは伝わりにくい。プロデビュー戦で黒星を喫するなど、順風満帆とは言い難いボクシング人生。河野選手が所属するワタナベジムの渡辺均会長が亀田戦での勝因を「経験の差。雑草。ずっと激戦をやってきた差ですよ」と話したように、数字だけでは計れない強さが河野選手にはある。
人間性も筆者を引きつける。試合前日の計量会見では決して豊富とは言えないボキャブラリーで相手を挑発するが、イマイチ迫力に欠けた。メディアが喜びそうな発言を連発する亀田選手とは対照的だった。朴訥で不器用。そんな男がリング上では一歩も引かない。殴られても、殴られても前へ出る。泥臭いボクシング。相手にパンチがクリーンヒットするたびによしっ!と声が出る。応援したくなるボクサーなのだ。
河野選手が現役続行を決めた理由。日本の報道によると、WBOスーパーフライ級1位のレックス・ツォー選手(中国、29歳)から10月に香港で対戦するオファーが届いたからだという。
その名前を聞いて渡辺会長の言葉を思い出した。
「次はできれば、マカオでやりたいね。中国にいるスター選手とね。レックス・ツォーとね」。
亀田戦の後、王者として戦いたかったボクサーがツォーだった。2年越しに実現する対決。シカゴで勝って海外の試合に自信を深めた。6月には第1子が生まれるという。復活する条件がすべて整った。
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