71年ぶりのワールドシリーズ進出に歓喜するシカゴ・カブスの選手たちを見つめるその表情が印象的だった。
10月22日、リグリー・フィールドで行われたナショナルリーグ優勝決定戦・第6戦。
ロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手はフィールドに響き渡る敵軍の勝どきを一塁側ベンチで聞いていた。
「悔しいですね」。
自身はシリーズ2試合に先発した。しかし、チームを勝利に導くことができなかった。15日の第1戦は4回4安打3失点。20日の第5戦は3回2/3で3安打1失点。レギュラーシーズンであれば、どちらも続投していてもおかしくない内容。短期決戦の厳しさを思い知らされた2試合だった。物足りなさを感じさせたのは、レギュラーシーズンでチーム最多の16勝を挙げるほどの活躍を見せていたからに他ならない。
前田投手は昨年オフに広島カープからポスティングシステムを使ってドジャースへ移籍した。契約前の健康診断で肩肘にイレギュラー≠ェあったことも影響してか、8年2400万ドルという前代未聞の条件で合意した。超大型契約のように見えるが、その実、1年平均300万ドルは今季のメジャーの平均年俸以下。結果次第で大きな年俸を手にできるインセンティブがついた超変則的な契約だった。
注目されたメジャー1年目。広島時代の実績がモノを言う。
4月6日の初登板でパドレス打線を6回5安打無失点に抑えた。打ってはホームランを放って初勝利を手にする。「一気に名前を覚えてもらえたような感じがした。いいスタートが切れた」。自ら今季のベストゲームに挙げたほど、大きな意味をもった試合。デビューから3連勝と波に乗った。
その後は約1カ月間、勝ち星がつかない時期もあったが、先発陣ではただ一人、ローテーションを守り、16勝11敗、防御率3・48でレギュラーシーズンを終了。勝利数だけでなく、投球イニング数(175回2/3)でもチーム最多を記録し、4年連続地区優勝に貢献した。年俸も最終的には1290万ドルまでアップした。
メジャーリーグには選手の総合評価指数としてWAR(Wins Above Replacement)なるものが存在するが、前田投手の今季のそれは、先発投手の平均2・0を上回る3・3。今季、メジャーでプレーした日本選手の中では、14勝4敗、防御率3・07だったニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手の4・6が最高。しかし、チームの成績を加味すると、前田投手が今季もっとも活躍した日本人メジャーリーガーと言っていいだろう。
カブスに敗れた後、ロサンゼルスに戻った前田投手は長いシーズンを振り返り、こう言った。
「1年間通してローテーションを守れて、16勝できたことは自分にとってはすごく自信になりました」。
全体で12球団の日本プロ野球に対し、メジャーのそれは30球団。もっとも苦労したのは、『野球』だったという。
「バッターが(日本とは)まったく違う。スイングだったり、パワーだったり、特徴も違うので、対戦してみて、こういうボールが有効かなとか、そういうものがたくさん見つかった。自分のもってないボール(投げない球種)だったり、もってるボールを改良したりすることは大切だと思うので、そういう意味ではいろいろ発見できたので来シーズンに向けて楽しみなことはたくさんあります」。
メジャー2年目はどんな変化を見せるのか。前田投手の真価を問われるシーズンになる。
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