胸が躍る。
その光景を想像しただけでわくわくしてくる。
シカゴを拠点とするカブスとホワイトソックスの戦いウィンディ・シリーズ=B今年は、7月10、11、12日に前者の本拠地リグレーフィールドで、8月14、15、16日に後者のUSセルラーフィールドで行われる。1997年から始まった交流戦。過去の対戦成績は52勝46敗でホワイトソックスがわずかにリードしている。
ノースサイダー≠ニサウスサイダー≠ェプライドを懸けてぶつかりあう。胸が躍る理由はそれだけではない。このオフの両軍の補強に勝利への意気込みが感じられるからだ。
先手を打ったのはカブスだ。昨年11月3日に開かれた記者会見。獲得したのは選手ではなかった。万年最下位だったタンパベイ・レイズを強豪チームに変えたジョー・マドン監督の招へいに成功した。メジャー界をあっと言わせたサプライズ補強=B同監督がレイズとの残り1年の契約を自ら破棄して退団したのが同10月23日。その直後にカブス入りが発表されたとあってタンパリングの疑いでメジャーリーグ機構が調査に乗り出すのも無理はなかった。
昨季は5年連続負け越しでナショナルリーグ中地区の最下位に沈んだカブス。マドン監督へのオファーは5年総額2500万ドル(約30億円)。1年平均500万ドル(約6億円)はロサンゼルス・エンゼルスのマイク・ソーシア監督と並ぶ現役監督最高額だ。ラスベガスのブックメーカーの2015年のワールドチャンピオン予想のオッズは、同監督の就任が決まった瞬間、50倍から一気に20倍にまで下がった。なにがなんでも欲しい人材だった。
ホワイトソックスも負けてはいない。11月18日に中継ぎ左腕のザック・デューク投手と3年1500万ドル(約18億円)で合意した。14年はミルウォーキー・ブルワーズで74試合に登板して5勝1敗4セーブ、防御率2・45の好成績を残したが、その前年は26試合に投げて防御率6・03でマイナー生活を送っていた投手。その後の中継ぎ投手の契約を高騰させた破格の契約は、マドン監督とは異質の驚きを与えた。さらに、同25日には昨季限りで引退したポール・コネルコ内野手の後釜としてアダム・ラローシュ内野手と2年2500万ドル(約30億円)の契約を結んだ。
ホワイトソックスにとってのハイライトは12月9日からの1週間だろう。
オークランド・アスレチックスとのトレードで先発右腕のジェフ・サマージャ投手を獲得した。サマージャと言えば、昨季途中までカブスのエースとしてシカゴに投げていた選手だ。選手個人にチームを選ぶ権限のないトレードとはいえ、1年もしないうちに反対側のチームに移籍するとはファンも胸中は複雑だったはずだ。しかし、これでエース左腕のクリス・セール投手との左右、2本の柱が確立された。
その翌日にはニューヨーク・ヤンキースからFAになったデービッド・ロバートソン投手を4年4600万ドル(約55億円)で、その6日後にはメルキー・カブレラ外野手と3年4200万ドル(約50億4千万円)で合意。いずれも複数球団が獲得に動いていた争奪戦を制し、着々と補強を進めていった。
しかし、今オフのカブスはえげつなかった。
サマージャのトレードが発表された同じ日にアリゾナ・ダイヤモンドバックスとのトレードで人気捕手のミゲル・モンテロをゲット。その3日後には昨季途中にサマージャと一緒にアスレチックスへトレード出したジェイソン・ハメル投手と2年2000万ドル(約24億円)契約で合意した。さらにその3日後には大争奪戦となっていた左腕のジョン・レスター投手を6年1億5500万ドル(約168億円)で口説き落としたのだった。
この時点でワールドチャンピオンのオッズは20倍から12倍までダウン。この数字はロサンゼルス・ドジャースの7・5倍、ボストン・レッドソックスの9倍、エンゼルスとワシントン・ナショナルズの10倍に次ぐメジャー30球団中5番目の高さだった。
それでもカブスは補強の手を緩めない。セントルイス・カージナルスの抑えだったジェイソン・モット投手と1年450万ドル(約5億4千万円)で、さらにはレスター投手とレッドソックスでバッテリーを組んでいたデービッド・ロス捕手と2年500万ドル(約6億円)とも契約。念には念を入れた補強でチーム力を上げた。
ホワイトソックスが所属するアメリカンリーグ中地区にはデトロイト・タイガースや昨季は29年ぶりにワールドシリーズに進出したカンザスシティ・ロイヤルズがおり、カブスが所属するナショナルリーグ中地区にはセントルイス・カージナルスやピッツバーグ・パイレーツがいる。両チームにとってプレーオフ進出は簡単なことではない。
しかし、今オフの補強はその可能性を感じさせてくれる。だからこそ、ウィンディ・シリーズは負けられない。162試合のうちのわずか6試合だが、今季は例年以上に注目されることは間違いない。
ホワイトソックスのセール投手はメジャー最強の先発左腕と言われており、同じ左腕のカブスのレスター投手との投げ合いは見ごたえがありそうだが、個人的にはサマージャ投手対レスター投手をリグレーフィールドで見てみたい。
ホワイトソックスは2005年に88年ぶりにワールドシリーズを制している。一方のカブスは1908年以降、106年間もチャンピオンから遠ざかっている。両軍がワールドシリーズで顔を合わせたのは1906年(ホワイトソックス4勝2敗)の1回きりだ。
シカゴの2チームがワールドシリーズでぶつかる。生きている間に見てみたいと思うのはシカゴの野球ファンだけではないはずだ。
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