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Alex
Rodriguez |
ブーイングには理由がある。
今季、メジャーリーグで最も多くブーイングを浴びた選手は、ニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲス内野手だろう。実際に統計を取ったわけではないが、かなり自信はある。
理由は、ズルをして大金をせしめたからだ。
Aロッドは8月上旬、薬物規定違反によりリーグから複数の選手とともに出場停止処分を受けた。ところが、他の違反選手が50試合(ミルウォーキー・ブルーワーズのライアン・ブラウン外野手は65試合)の出場停止、Aロッドは211試合の裁定は重すぎるとして異議申し立てを行い、プレーすることを決断した。ただ一人、罪が重かったのは、違反が2度目であったり、リーグ機構の調査を妨害したりしたからだが、本人は「チームの勝利のため」と言って、”ヤンキース愛”をアピール。しかし、地元のファンの反応は冷ややかなもので、裁定後初めてヤンキーススタジアムでプレーした際には歓声の中にしっかりとブーイングが混じっていた。
本拠地がそうなのだから、アウェーの球場がブーイングの嵐になるのは想像に難くない。練習の時、選手紹介の時、フィールドに姿を見せた時、守備で打球を処理する時、ヒットを打った時・・・。大歓声が送られるのはアウトになったときだけ。プロスポーツ史上最大の10年2億7500万ドル(約270億円)の選手である。クスリの力で手にしたカネ。そう解釈されても仕方のないことだった。
ブーイングには理由がある。が、ごく稀(まれ)に理不尽もある。
Aロッドのチームメートでもあるヤンキースのデービッド・ロバートソン投手が9月27日のヒューストン・アストロズ戦でそれを経験した。
中継ぎピッチャーであるロバートソンが1点リードの9回に登板すると、敵地ファンが一斉にブーイングを始めたのだ。アウェーの試合でも多くのヤンキースファンは集まり、応援するのだか、その時ばかりはファンまでもが一緒になってBOO!とやった。
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Mariano Rivera |
ロバートソンがヒューストンで投げるのはこの日が初めて。しかも、アストロズの選手との因縁もない。Aロッドのようにブーイングされる理由がまったく見当たらないのだ。
本当の理由は、ロバートソンのチームメートで、今季限りで引退することを表明していたマリアノ・リベラ投手にあった。ヤンキース対アストロズの3連戦は今季で最終カード。つまりリベラにとっては現役最後3連戦だった。
メジャーリーグでただ一人、全球団の永久欠番になっている黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソン選手の背番号「42」を背負う選手である。歴代最多の652セーブの記録をもつリベラの役割は、リードした9回に登板し、チームを勝利に導くクローザーだ。1点リードの状況なら当然、42番がマウンドに上がるはず。最後の雄姿を期待する野球ファンがロバートソンの姿を見た瞬間、落胆し、不満の声を上げるのも無理はなかった。
ただし、リベラの事情を知っていれば、ブーイングする必要はなかった。前日26日の試合は本拠地最終戦でリベラは8回途中からサヨナラ登板し、9回2死で交代を告げられた際には人目もはばからずマウンド上で号泣した。ヤンキース一筋19年、チームの黄金時代を築いた功績に対する地元ファンのスタンディングべーションに何度も手を挙げてこたえ、最後は甲子園で破れた高校球児のようにマウンドの土をもって帰った。感動シーンの連続だった。
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David Robertson |
そして、一夜明けた7日のアストロズ戦でリベラは他の中継ぎ投手とは別行動を取った。いつもなら一緒に外野フェンスの向こうにあるブルペンで出番を待つのだが、ずっとベンチに残ったまま、試合を観戦した。ともにプレーオフ進出の可能性のないチーム同士の戦い。いわゆる消化試合だ。後日、リベラはもともとアストロズ戦には投げないつもりだったことを明かしたが、27日に見せた一連の行動は登板しないことを意味していた。
身に覚えのないブーイングの中、1イニングを無失点に抑えてチームを勝利に導いたロバートソンは試合後、笑顔で「お客さんの反応は理解している」と話、むしろ、その雰囲気を楽しんでいる様子だった。「観客の反応はよく聞こえなかった」ととぼけたAロッドとは対照的だった。
ブーイングには意味がある。その意味を追求していくと、真実が見えてくる。
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