アレキサンダー・エマニュエル・ロドリゲス。
まるでどこかの国の王様の名前。実は、これ、メジャーリーグ、ニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲスのフルネームだ。メジャーリーグ史上最大規模となる10年2億7500万ドル(約275億円)の契約を2007年オフに結んだことで知られるスーパースター。今季の年俸はメジャーダントツ1位の2800万ドル(約28億円)。そのゴージャスな名にふさわしい富を手にした選手である。
ニックネームは「A―ROD(Aロッド)」。かつては走、攻、守を兼ね備えた遊撃手だった。今からちょうど20年前の1993年のドラフトで高校卒業ながら全体1位で指名され、翌年の7月8日にメジャーデビューした。初めてフルでメジャーに在籍した96年には、20歳の若さで首位打者のタイトルを獲得し、オールスターゲームにも初めて選ばれた。シーズンMVP投票では2位となり、スター選手の仲間入りを果たした。当時のトレンドだった大型遊撃手の代表格。そのスピードとパワーで相手を木っ端微塵に破壊するパフォーマンスは『鞭』のようだった。
メジャー通算成績は打率3割、1950打点、1949得点、647本塁打。打率以外は堂々の現役1位の数字。しかも、歴代6位に相当する打点は1位のハンク・アーロンの記録まであと347打点、同9位の得点は1位のリッキー・ヘンダーソンまで336得点、同5位の本塁打はバリー・ボンズまであと115本に迫っている。とりわけ、本塁打は2010年8月4日にベーブ・ルースの36歳196日を大幅に上回る史上最年少の35歳8日で600号に到達。限りなくクロに近いボンズに象徴されるステロイド時代に終止符を打つべく選手として“ボンズ越え”は成し遂げなければならないミッションだった。球団もそれを後押しすべく、歴代4位のウィリー・メイズの660本塁打以降は順位を上げるたびにボーナスを与える非常にばかげた、いや、超異例のボーナスを用意している。
ところが、4年前に状況が一変する。
2003年シーズン中に実施された薬物検査で陽性反応が出ていたことをスポーツ総合誌「スポーツイラストレイテッド」がスクープ。その報道を受けた形でAロッドはテレビのインタビューで01年から3年間、禁止薬物を使用していたことを“激白”した。54本塁打&156打点&143得点を記録した2007年をピークに成績も下降。偶然か、必然か、近年はけがが多くなり、2011、12年の数字は合計で34本塁打、119打点、141得点という低調ぶりだ。
そんなAロッドがさらに追い打ちをかけるような状況に陥っているのが今シーズンだ。今月27日に38歳になるベテランはまだ一度もフィールドに立ってはないのだ。1月に手術した左足股関節のリハビリのため、フロリダ州タンパの球団施設で滞在している。本当なら「復帰に向けて黙々とメニューをこなしている」と書きたいところだが、そうでもないようだ。
出るわ、出るわ。今や、メディアが伝えるAロッド情報はほぼ100%がネガティブなものだ。手術直後の1月下旬にはマイアミのクリニックが提供している禁止薬物の顧客リストの中に「アレックス・ロドリゲス」の名前が入ってくることが判明。本人は遺憾の意を表明したが、その後もクリニックが所持する文書を大金で買い取りを持ちかけ“証拠隠滅”を謀ろうとしたと報じられるやら、リハビリ中に元モデルで女子プロレスラーのトリー・ウィルソンとプールサイドでデートしている写真を掲載されるやらで、『有名税』では済まされない話題で注目を集めている。
つい先日もひと悶着あった。最近始めたばかりのツイッターで本来なら球団が最初に発表すべき内容を報告してしまったのだ。これにヤンキースのゼネラル・マネジャー(GM)、ブライアン・キャッシュマンが激怒し、ラジオ番組でFワードを使ってAロッドを批判。これによりさらに騒ぎは大きくなり、翌日にGMが“釈明会見”を行うはめに。その場では不適席な言葉を使用したことは謝罪したものの、Aロッドの行為には改めて苦言を呈し、結局、ランディ・レバイン球団社長が2人の仲を取り持つ騒動にまで発展した。すべてはツイッターの“ルール”に関するAロッドの『無知』が発端だった。
Aロッドの残りの契約は今季を含め、5年1億1400万ドル(約114億円)。米メディアは、MLB(大リーグ機構)がマイアミのクリニックに関与した選手に100試合の出場停止処分が検討されていることや、ヤンキースがAロッドの支払うべき年俸の80%が保険でカバーできることなどを報じている。しかし、その報じ方はまるで引退に追い込もうとしているかのよう。
リハビリが順調に進めば、今季中にAロッドは戦列に復帰する。結果でしか汚名を返上できないことは本人が一番分かっているだろう。万が一、かつてのように打ち始めた時、周囲はどんな反応を見せるのか。もう遅い。そう思っているのは僕だけだろうか。
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