ダルビッシュが面白い。
今季からメジャーリーグ、テキサス・レンジャーズでプレーしているダルビッシュ有投手(25)が順調に勝ち星を重ねている。
4月24日のニューヨーク・ヤンキース戦で9回1アウト、完封勝利まであと2アウトのところまで投げて3連勝。この時点で3勝はアメリカン・リーグで1位タイ、防御率(9回当たりの平均自責点)2・42は同9位、奪三振数24は同5位という数字だった。
昨季まで日本のプロ野球、北海道日本ハムファイターズでプレーしていた。オフに入札制度(ポスティングシステム)を使ってメジャー球団へ移籍。レンジャーズが独占交渉権を得るために使用した金は5170万3411ドル(約41億円)、さらに同投手とは6年5600万ドル(約37億円)の契約で合意。たった一人で1億ドルを超える金額を動かしてしまったのだ。
注目のメジャーデビュー戦は荒れた。4月9日のシアトル・マリナーズ戦。イチロー外野手のほかに元福岡ソフトバンク・ホークスの川崎宗則内野手、元仙台楽天ゴールデンイーグルスの岩隈久志投手も今季から加わったチームだ。盛り上がらないはずがなかった。
ところが、ダルビッシュのコントロールが定まらない。先頭打者をいきなり4球連続ボールで歩かせた。1死一塁の場面で迎えたイチローには三塁手後方に落ちるヒット。川崎には押し出し四球を与えるなど、初回だけで4安打3四球4失点。1イニング平均15球と言われている球数は早くも42球に達した。
結果はその直後にレンジャーズが誇る重量打線が爆発。4回までに3本のホームランなどであっさり逆転し、ダルビッシュはメジャー初勝利を手にした。制球が安定しないまま6回途中で降板。内容は8安打5奪三振5四球で5失点。マウンドを降りる際には地元ファンが総立ちでメジャー初登板を称えたが、ダルビッシュは顔を一度も上げることなく、ダグアウトの中に消えた。人間味が見えたいいシーンだった。
常に自信満々のコメントを口にしてきたダルビッシュが意外な一面を見せたのは2度目の登板となった4月19日のミネソタ・ツインズ戦の試合後だ。この日もコントロールが安定せず、8安打5奪三振5四死球2失点で前回同様、6回途中で交代を告げられた。2試合を終えて17本のヒットを打たれて7失点。防御率は日本時代の1・99に遠く及ばない4・76だった。
「こっちに来てと言ってもまだ1年目ですし、なんせまだ2カ月ぐらいですか、あまりにもチーム内でも環境に溶け込むのにも時間がかかるし、同じ日本じゃないっていうのもあるし、キャッチャーとのコミュニケーションもあるし、これですぐいきなり日本と同じような防御率1点とか、それやったら天才ですよ」
しかし、そこからダルビッシュの投球が激変する。続く4月19日のデトロイト・タイガース戦で、オープン戦から多投しながら制球力を欠いていたツーシームファストボール(右打者に対して外へ沈む直球系の球)を捨てた。フォーシームファストボール(動きがほとんどなく、真っ直ぐ伸びていく球)で押し、メジャー屈指の3、4番コンビ、ミゲル・カブレラやプリンス・フィルダーを擁する強力打線を抑え込んだのだ。日本時代同様、150キロ台の速球をビシバシ決める。過去2試合と同じく、5奪三振5四球で6回途中でマウンドを降りたが、打たれたヒットはわずか2本で1失点。「全体的な制球が自分のものになってきた」。手ごたえの言葉を口にしたのだった。
その言葉はうそではなく、ヤンキース戦でもコントロールが冴え渡った。フォーシームファストボール、カットファストボール、スライダー、カーブ、チェンジアップ、さらに制球が安定せず、封印していたツーシームでもストライクを取り、殿堂入りが確実視されているデレク・ジーターやアレックス・ロドリゲスといった好打者を完全に翻弄。『七色の球種をもつ男』が初めて本領を発揮した試合となった。
そして、試合後のコメントがこれだ。
「まだちょっと、はっきり言って、ヤンキースをここまで抑えれて完璧じゃないって言うのもアレなんですけど、むこうは初めての対戦ですし、こっちは向こうのことはいろいろ知ってますし、まだまだと思いますね」
相手に1点もやらずに「完璧じゃない」、「まだまだ」と言ってのける。そんなダルビッシュに無限の可能性を感じざるを得ない。野球や投球術を知らずともその容姿や投球フォームの美しさに魅了されることは間違いない。
ダルビッシュが面白い。
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