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メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスからフリーエージェント(FA)になっていた松井秀喜選手の移籍先がオークランド・アスレチックスに決まった。カリフォルニア州オークランドにある本拠地で入団会見が行われたのは昨年12月14日のこと。7年間プレーしたニューヨーク・ヤンキースからFAとなり、エンゼルスで入団会見をしたのと同じ時期だった。
アスレチックスが松井の評価を初めて公にしたのは11月上旬。ワールドシリーズ終了後に行われるGMミーティングの場でのことだ。
「我々はマツイがすばらしい打者であることは知っている。過去の実績を見ればよくわかる」。
アスレチックスのビリー・ビーンGMが口にした賞賛は、エンゼルスのトニー・リーギンスGMが1年前に使った言葉でもあった。しかし、同じ賞賛の言葉でも、合意までの過程は少し違っていた。
松井の選手としての特徴を挙げるとすれば、左打ちの長距離ヒッター。打線の中軸となる4番、5番打者として出塁した走者を的確なバッティングでホームへ迎え入れる、つまり、打点を挙げることが課せられた役割だ。08年のひざの手術の影響でこの2年は守備機会がほとんどなく、打撃を専門とする指名打者で出場してきた。守備に意欲を見せていた2010年もわずか18試合で守っただけとあって、松井の獲得を考える球団は必然的に指名打者制のあるアメリカン・リーグの14チームに限られた。
ただ、移籍すると言っても、そのチームに松井と同じ指名打者タイプの選手がいては役割がかぶってしまう。エンゼルスの場合は、当時指名打者だったブラディミール・ゲレーロ選手との残留交渉が決裂したことで、松井獲得に本腰を入れたが、アスレチックスの場合は、指名打者のジャック・カスト選手との契約更新をしないと決めた後にアダム・ダン、さらにランス・バークマンといった指名打者兼内野手のパワーヒッターに食指を伸ばしている。
つまり、松井を高く評価しながらも、最優先選手ではなかったというわけだ。これは同じように松井獲得に興味を見せていたシカゴ・ホワイトソックスやボルティモア・オリオールズにも言えたことで「いいバッターだけど、今すぐほしい選手ではない。リストの上位にはない」というのが実情だった。
日本のスポーツ紙の紙面には数多くの球団名が踊り、“争奪戦”の空気が作り出されていたが、結局、アスレチックスから提示された条件は1年425万ドル(約3億6000万円)。前年と比較して175万ドル(約1億5000万円)減俸という厳しいものだった。今回の交渉過程について松井はアスレチックスの誠意に感謝の意を表したが、年俸が下がってはとても争奪戦とは呼べない。
しかし、メジャー球団の本当の評価とは裏腹に、松井の体調はすこぶるいい。神がかり的な打撃でチャンピオンリングとともにシリーズMVPを獲得した後の09年オフは打撃練習を回避したほどひざの状態が不安定だったが、今オフは早くも11月から黙々とバットを振っている。雲泥の差だ。
ヤンキース最後の年となった09年の成績は142試合に出場して打率・274、21本塁打、90打点。初めて移籍を経験した10年は、145試合で打率・274、24本塁打、84打点。残した数字は似ているが、チーム成績はヤンキースの9年ぶり世界一に対し、エンゼルスは4年ぶりプレーオフ進出失敗。興味深いのは、ヤンキースがワールドシリーズ2連覇できなかった一因に「松井の退団」を挙げたメディアと、エンゼルスがプレーオフに進出できなかった一因も「松井の入団」を挙げたメディアが存在した点だ。結果論というのは恐ろしい。
若くて力のある先発陣を誇るアスレチックスに待望した主砲・松井が加わった。今オフは積極的な補強で打線のバランスはよくなり、打撃力は確実にアップしている。松井が打点王を争う可能性は十分にある。2011年のゴジラがどんなパフォーマンスを見せるのかとても楽しみにしている。
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