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なぜ、こんなことに・・・。
ポスティングシステム(入札制度)でメジャーリーグへの移籍を目指す楽天ゴールデンイーグルスの岩隈久志投手とオークランド・アスレチックスとの交渉が難航している(11月24日現在)。
岩隈投手の代理人を務めるダン野村氏のツイッターによれば、アスレチックスが最初の条件を提示したのは11月19日。4年1525万ドルだった。しかし、これを不服として翌日、条件見直しを求めるたところ、一方的に交渉を打ち切られたという。
アスレチックスの提示条件は1年平均381万ドル。円に換算すれば岩隈の今季の年俸3億円とほぼ同額だ。しかし、岩隈側は今季の成績からすれば、来季の年俸は確実に3億円を越えると考え、“ほぼ同額”はダウン提示と同じと計算したわけだ。
しかも両者が用いた岩隈を評価する“物差し”は大きく違っていた。
アスレチックス側が契約内容の参考にしたのは、06年オフにポスティングシステムで阪神からヤンキースに移籍した井川慶投手の5年2000万ドルや、昨オフに広島からFAでレンジャーズに移籍したコルビー・ルイス投手の2年500万ドル。一方の岩隈側は、06年オフに同システムで西武からレッドソックスに移籍した松坂大輔投手の6年5200万ドルや07年オフに広島からFAでドジャースに移籍した黒田博樹投手の3年3530万ドル。ここに挙がった4人は、日本では岩隈と同じチームのエース的存在だったが、1年平均で500万ドル以上の差がある。交渉が難航するのも無理はなかった。
ただ、緊縮財政で知られるアスレチックスだから条件が低くなるのは予想できた。しかも近年の日本人先発投手がその年俸に見合う働きをしていないという現状もある。日本よりも登板間隔が短く、試合数も多い。ボールやマウンドの質の違い。環境の違いにアジャストするために試行錯誤し、けがをしない肉体を作るために鍛錬しても周囲を納得させる成績を残すことができないでいる。獲得する側が慎重になるのも理解できる。
とはいえ、岩隈側には自分は日本を代表する投手であるという自負がある。今後メジャーを目指す日本の一流投手のためにも低条件を呑むわけにはいかない、という意地もある。
ここで素朴な疑問が浮かぶ。
岩隈本人の気持ちはどうなのか?と。
世界最高峰にあるメジャーリーグで自分の力を試してみたい、世界中から集まる強打者や巧打者と対戦してみたい。そんな大きな夢をもって踏み出した一歩ではなかったのか。そう考えれば、4年1510万ドルは決して悪い条件ではないはずだ。
そもそも、あと1年、日本でプレーすれば、FAの資格を得て自分の意思でチームを選ぶことができるのをお世話なった楽天に独占交渉権の入札金(今回は1910万ドル!)で恩返しをするために、自分の意思では選べないポスティングシステムでの移籍に決めたのではなかったのか。
サンフランシスコ・クロニクル紙が、岩隈側はジャイアンツのバリー・ジトー投手の契約7年1億2600万ドル、1年平均1800万ドルもの条件を要求していると報道したことも野村氏を激怒させる要因となった。が、しかし、ツイッターで交渉内容を暴露するというはやりすぎだ。この期に及んでこの制度は選手にとって不利だと日米メディアに訴えたのも首をかしげたくなる。さらに、一部の日本のメディアが、野村氏の主張そのままに「岩隈は犠牲者だ」と書きたてたことにも閉口してしまった。そこまでダメな制度だと言うのなら、せめて代替案を出してほしかった。
交渉期限は12月7日。原稿の締切日の都合上、最終結論をここで書けないのは心苦しいが、この交渉過程で一番残念に思うのは、岩隈の「どうしてもメジャーで投げたい」という熱意と、アスレチックスの「どうしてもウチに来てほしい」という誠意が見えないことだ。このまま交渉が終わってしまってはあまりにも悲しすぎる。お互いが「投げたい」「ほしい」という原点に立ち返った時、両者の距離は一気に縮まる気がするのだが・・・。
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