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気持ちはよく分かる。しかし、それは言ってほしくなかった。
NBA、クリーブランド・キャバリアーズ(以下キャブス)のスーパースター、レブロン・ジェームズがフリーエージェント(FA)の権利を行使してマイアミ・ヒートへの移籍を決めた。シカゴ・ブルズもその選択肢に挙げていただけにシカゴ市民をがっかりさせる結果となったが、とりわけ、キャブスの筆頭オーナー、ダン・ギルバートの落胆ぶりは相当なもの。球団ホームページに発表した声明には、落胆を通り越し、怒りをぶちまける辛らつな言葉が羅列されていた。
「親愛なるクリーブランド、オハイオ北西部のみなさま、そして、全米のクリーブランド・キャバリアーズのサポーターの方々へ」との書き出しで始まる文章は、ジェームズがクリーブランドを去る事実を伝え、続けてこう書かれていた。
「この発表は、全米で放映された『decision(決断)』という特別番組で行われたが、これはスポーツ、いや、エンターテイメントの歴史においても類を見ないナルシスト的、自己宣伝的に盛り上げたものでした」。
通常、FAで移籍する選手は、まず球団から公式発表された後、記者会見を開く流れになっているが、ジェームズは公式発表の媒体としてスポーツ専門局「ESPN」に生出演。しかも、自身の背後に子供たちを座らせるという、政治家顔負けの演出。完全にコケにされたキャブスが激怒するのも無理はなかった。
ただ、言い過ぎた。
「私は約束します。自分で『キング(ジェームズの愛称)』と名乗っていた男よりも先にクリーブランド・キャバリアーズがNBAチャンピオンになることを」。
「みなさんにとってよいお知らせは、この冷酷で無神経な行動によってクリーブランドの“呪い”を生んだことです。自称『キング』はこの“呪い”を南の地へもっていくことになるのです」。
さらに後日受けたインタビューでは、今季のプレーオフの試合でジェームズが戦意を失っていたとも語っている。
僕はジェームズの肩を持つつもりはないが、03年ドラフトで全体1位で指名されてから今季までの7年間、彼がキャブスにとてつもなく大きなものを残してきていたのは事実だ。最近5年は毎年プレーオフに進出しているし、06−07年シーズンには球団史上初のファイナルにも進んだ。ジェームズを核として作り上げられたチームはドアマットチームから一躍、リーグ有数の強豪へと変貌を遂げたのだ。クリーブランドという町のイメージアップにもつながったと言っても過言ではないだろう。
メジャーリーグに目を移せば、クリーブランドを本拠地とするインディアンスが全30球団の中で「MOST HATED TEAM」に選ばれている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が今年4月に報じた内容によれば、この結果はニールセン社が独自の統計ではじき出した数値を基に決定。ボストン・レッドソックスやニューヨーク・ヤンキースを差し置いての1位のポイントを獲得している。
今回のキャブスのオーナーの言動は、全米で大きな波紋を広げたのは言うまでもない。クリーブランドに住む人々には申し訳ないが、町へのイメージまでも変えてしまったような気がして残念でならない。
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