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かつてホワイトソックスにも所属した元大リーガー、ホゼ・カンセコ氏が再び、「暴露本」を出版することになった。
05年に出した「JUICED」(日本では「薬漬け」と訳されている)の続編。あえて「暴露本」としたのは、第1弾では自身が現役時代にドーピングをしていたことを告白しただけにとどまらず、マーク・マグワイア(引退)、イバン・ロドリゲス(タイガース)、ジェイソン・ジアンビ(ヤンキース)、ラファエル・パルメーロ(引退)ら、実績と人気を兼ね備えた選手にも触れたから。「大リーガーの85%がやっていた」という一文は、やや誇張があったにせよ、大きなインパクトを与えた。
やっかいなのは、限られた人間にしか入れない世界の内情を公にした理由をカンセコ氏が「真実」、「正義」のためであるとしていること。
しかし、果たしてそうなのだろうかと首をかしげたくなる。
彼の著書は、その真偽は抜きにして大リーグ界の汚染度の高さを知らしめることにつながったのは確かだが、第1弾が出版された時点ですでにバリー・ボンズ(当時ジャイアンツ)は、アスリートに禁止薬物を提供していたBALCO社との関係を追及されていたわけだから、国によって汚染度の高さは証明されるのは時間の問題だった。カンセコ氏は騒ぎを大きくしただけの話だ。
「暴露本」の裏に透けて見えるのはカネ。現に第1弾はベストセラーになった。もし、その内容が、自身のドーピングに手を染める経緯や葛藤だけの「告白本」に終わっていれば、あれほどメディアに取り上げられることもなかっただろう。今回も内容の過激さには自信をもっているようだし、「二匹目のドジョウ」を狙っている感は否めない。
「カネ」をより強く印象づけたのは、昨年12月に元上院議員のジョージ・ミッチェルを責任者として調査した「ミッチェル・リポート」が発表された直後のカンセコ氏の行動。報告書には約90人の現役、元大リーガーの禁止薬物使用が記されていたわけだが、それについて同氏は「不完全だ」とはっきり言い、ヤンキースのアレックス・ロドリゲスの名前がないことに異議を唱えた。
俺がやるしかない!と言わんばかりに続編の話が知れ渡ったのはその頃だ。
確かに「全体の85%がやっている」と主張する人間にとっては物足りない内容だったかもしれない。しかし、その数字が、200人、300人であったとしても「ミッチェル・ー」が、大リーグ界に与える影響の大きさは変わらなかったと思う。肝となる「命を危険にさらす可能性のある薬物には手を出してはいけない」という未来あるアスリートたちへのメッセージは同じなのだから。
にもかかわらず、第2弾。そして、タイトルは「VINDICATED(証明された)」。「ミッチェル・ー」の便乗と受け取られても仕方はない。一部のメディアでは、カンセコがタイガースのマグリオ・オルドネスに対し、映画製作に要する500万ドルを出せば、第2弾に名前は載せないと脅迫したとも伝えられている。
どこまで野球を食いモノするつもりなのだろうか。
赤ん坊のころに両親とともにキューバから亡命し、大リーグは苦労してたどり着いた聖地ではなかったのか。野球は自分の人生を賭けたものではなかったのか。もし、大リーグ、野球の発展を願っての行動なら、もっといいアイデアがあったにちがいない。カンセコは元議員ではなく、元大リーガーなのだからそれを知っているはずだ。
カンセコ氏の現役生活は光り輝いていた。大リーグ生活19年、打った本塁打は歴代31位の462本。86年にはア・リーグ新人王、88年には42本塁打&124打点で2冠王に輝き、リーグMVPにも選出された。史上初となるシーズン40本塁打&40盗塁をやってのけた。
殿堂入りも夢ではなかった。記録と記憶で残る選手は数えるほどしかいない。カンセコ氏は間違いなくその一人だった。今や、その栄光は完全に黒い影に覆われてしまった。悪名だけがどんどん大きく膨れ上がっている。カネが人間を狂わせてしまったのか。
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