|
どうやら、語源はフランス語らしい。
フランス東南部に位置するプロビンス地方。そこに住む人々は、羊膜が付着して生まれた赤ん坊を「mosqu」と呼び、その単語を「一家に幸運をもたらすもの」の意として日常的に使っていた。やがて、それは形を変え、作家エドモンド・オードランが喜劇オペラ「La
Mascotte」を発表した1880年以降にフランス全土に知れ渡ることになる。好評を博した作品は国境を越え、イギリスで「The
Mascot」と翻訳された。
マスコットが「幸運をもたらす動物や人、もの」の意味をもつ所以がここにある。
企業は消費者の目を引きつける手段としてマスコットを作製する。勝敗を争うスポーツ界においても、マスコットの存在意義は決して小さくはない。特に団体スポーツのチームには、必ずといっていいほど、マスコットがいる。
カラフルな色づかい(地味なものもあるが)、ついつい表情が緩んで愛らしさ(ドン引きするほどリアルなものもあるが)、アクロバティックな動き(鈍くさいものもあるが)で観客の目を楽しませる。戦いの場を盛り上げ、一体感を作り出す。その空気が選手を鼓舞し、勝利をもたらす。
試合だけではない。マスコットたちは、各チームが主催する学校訪問や病院慰問といった、チャリティ・イベントにも参加する。地域に密着した活動にも熱心だ。選手より人気のあるマスコットだって珍しくはない。
そんな彼ら、彼女らの功績を称え、2年前に「マスコットの殿堂(Mascot Hall
of Fame)」が創設された。殿堂と言えば、選手のためのものと思われがちだが、アメリカには、スポーツに携わる記者、アナウンサーら、メディアの殿堂だってある。いわんや、マスコットをや、というわけだ。
とはいえ、誰もが殿堂入りできるわけではない。18人で構成する実行委員会と、委員会の投票により、75%の得票率を越えなければいけない。ちなみに、実行委員長は、大リーグのフィラデルフィア・フィリーズのマスコット、初代フィリー・ファナティックに扮していたデービッド・レイモンド氏が務めている。
資格だってある。プロ・チームか大学チームに所属していること。誕生から10年以上が経過していること。スポーツ界に大きなインパクトを与えていること。この3つの条件で最大のハードルとなるのは、3つ目だろう。
自分が所属するチーム関係者だけでなく、老若男女を魅了しなければいけない。独創的で、ユニークで、質の高いパフォーマンス。極端に言えば、対戦相手である敵をも納得させるものをもっていないといけない。全米にごまんといるマスコットの中でキラリと光る存在になるのは相当な時間と労力を要する。
05年に初めて実施された投票では、プロから3体が殿堂入りを果たしている。大リーグからは、先に触れたフィリーズのファナティックと、サンディエゴ・パドレスのフェイマス・チキン、NBAからはフェニックス・サンズのサンズ・ゴリラ。昨年は、NBAからヒューストン・ロケッツのクラッチ・ザ・ベア、ユタ・ジャズのジャズ・ベア、NFLからカンザスシティ・チーフスのKC・ウルフ、それにデラウェア大、オーバーン大、ウィスコンシン大のマスコットが選出されている。
今年の殿堂入りマスコットは9月に発表される。殿堂のことを頭の片隅に置きながら、マスコットたちの努力の結晶でもあるパフォーマンスを見るといい。きっと、新たな魅力を発見できるにちがいない。
|