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「DICEーK」。スポーツ好きなら全員が知っているであろうこの言葉。念のために言っておくが、新しいファッション・ブランドでも、車の名前でもない。読み方は「ダイスケ」。そう、今季からレッドソックスでプレーする松坂大輔投手のことだ。サイコロを意味する「DICE」は、レッドソックスが独占交渉権と6年契約の総年俸を合わせて130億円もの大金を投じて獲得した ”賭け“を連想させ「K」は野球用語で三振を意味する世界共通の文字。見る者の興奮を誘う ”造語“が、全米の興味をさらにかき立てているようだ。
その松坂が、4月5日、ミズーリ州カンザスシティにあるカーフマンスタジアムで行われるロイヤルズ戦でついにメジャーリーグ初登板を果たす。全国紙「USA・TODAY」をはじめ、米国メディアがこぞって「今季最も注目すべき選手」としてその名を挙げたスーパールーキー。日本からも100人を超える大取材陣が押し寄せる。
「お金の大小で野球をするわけではないので、プレッシャーはあまり感じていない」。フロリダ州フォートマイヤーズでのキャンプを目前にした2月15日。同地のメイン球場の三塁側スタンドで行われた記者会見でテレビカメラ20台、報道陣150人を前にそう言い切った松坂の表情は和やかだった。気負いは全く感じられない。屈託のないその笑顔は揺るぎない自信の表れだった。
キャンプは順調そのもの。3月からスタートしたオープン戦は、4月5日の初登板から逆算して首脳陣が作り上げた綿密なスケジュールに沿ってマウンドに上がった。まだメジャーの舞台で1球も投げたことのない投手。結果を残して首脳陣を安心させたい気持ちが生まれてもおかしくないが、オープン戦7試合のマウンドは結果にこだわることはなかった。
その考えを象徴する試合が3月11日のオリオールズ戦。4回を投げて2本塁打を含む6安打4失点。数字を見れば「不振」の文字が浮かぶが、試合前には「1回ぐらいボコボコに打たれたい」と宣言、試合後は「どこを投げたら打たれ、抑えられるのかの確認を今日は絶対にしておきたかった」と涼しい顔だ。恐ろしいのは、ホームランを打たれた相手はいずれもマイナー選手で、ミゲル・テハダやメルビン・モーラといったオールスター出場選手が並んだ主力にはわずか2安打に抑えたこと。大胆かつ緻密な計算のもとに投げ分けていたのだった。そして、同21日のパイレーツ戦では5回2/3を投げて1安打1失点。初の全米放送となった試合で7つの三振を奪う快投を披露し、その夜のスポーツニュースを独占した。
気がかりな点を挙げるとすれば、日本では経験したことのない中4日の先発ローテーションだ。日本での登板間隔は中5日、もしくは、中6日。大リーグでは先発の投球数が100球前後と制限されているとはいえ ”休息“が少なくなるのは小さな問題ではない。ただ、そこでも松坂はしっかりと考えている。オープン戦終盤には先発陣のルーティンになっているブルペンでの投球練習を自らの意思で省略するなど、準備は万端だ。
「一番対戦したいバッターはイチローさんです」。心躍る夢の対決がメジャー2戦目、4月11日のマリナーズ戦で実現する。120億円右腕と年間262安打のメジャー記録をもつ安打製造機のマッチアップ。さらには同20日からのヤンキース3連戦。楽しみは尽きない。
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