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大リーグでは毎年、ワールドシリーズ後の11月に全米野球記者協会(BBWAA)に属する記者の投票によるアメリカンとナショナル、各リーグのMVP(最優秀選手)、サイ・ヤング賞(最優秀投手)、ルーキー・オブ・ジ・イヤー(最優秀新人)、マネージャー・オブ・ジ・イヤー(最優秀監督)が選出される。その中でも今季、特に関心を集めているのが、ア・リーグのMVPだ。
事の発端は9月11日付のボストン・グローブ紙の記事だ。見出しは「オーティスがホームラン、MVP投票に物申す」。ボストン・レッドソックスの人気者、デービッド・オーティスが地元記者に自分の考えを“激白”したわけだが、クローズアップされたのは次のコメントだった。
「一つ言われてくれよ。もし、オレが50本塁打を打って、打点を10増やせば、ア・リーグでは誰も届かない数字に近づくことになる。でも、記者たちは野手に票を入れるだろう。今もしょっちゅうジーターの話題をしているだろ?彼はよくやってるさ、すばらしいシーズンを送ってるさ。でもな、40発は打たないし、打点を稼ぐ打者じゃない。チームのために何をやったかではなく、結論は40発打って100打点を稼ぐ選手なんだよ。そういう選手が勝利をもたらすんだ」
記者がどんな誘導尋問をしたのか疑問だが、オレを選べ!と言わんばかり発言だった。それにしても、口にした名前が悪かった。デレック・ジーター。「プリンス」と呼ばれるヤンキースの超人気選手、大リーグを象徴する選手だ。大きな誤解を招きかねない発言に全米中が敏感に反応したのだった。
ちなみに、この時点での両者の成績は、オーティスが打率・288、48本塁打、127打点。ジーターが打率・345、13本塁打、95打点、29盗塁。前者はチームの主砲として本塁打と打点でリーグ2冠王、後者は1番打者として打線に火をつけ、熾烈な首位打者争いを繰り広げていた。
オーティスが示したポイントは3つある。
1つ目は、ショートを守るジーターに対し、オーティスは一塁は守るが、基本は打撃専門の指名打者という点。守備ではチームに貢献できないからこそ、けん制するかのように「野手」という言葉を持ち出したのだろう。
2つ目は、具体的な数字を出すことで選出の“基準”を提示にした点。ジーターへの評価は攻守だけでなく、チームのキャプテンとしての強烈なリーダーシップや野球への取り組み方にもあるが、これらは目には見えないもの。人によって受け取り方に違いがある。
3つ目は、チーム状況ではなく、個人の結果を指摘している点。。この記事の中でオーティスは、03年にMVPを獲得したアレックス・ロドリゲス(現ヤンキース)についても言及している。当時、地区最下位のレンジャースでプレーしていた彼の成績は打率・298、47本塁打、118打点。その裏には、レッドソックスはア・リーグ東地区2位ながら首位のヤンキースに大きく水を空けられいることも含まれているという現実がある(結局、ヤンキースは9年連続地区優勝、レッドソックスはプレーオフ進出を逃す)。
実は、昨季のオーティスは打率・300、47本塁打、148打点というすばらしい数字を残しながらロドリゲスにMVPを奪われ、悔しい思いをしている。そんな経緯もあっての「物申す」となったようだ。
今年のア・リーグMVP候補は、この2人のほかに、オーティスの同僚、マニー・ラミレス、ジーターの同僚のジェイソン・ジアンビ、ホワイトソックスのジャーメイン・ダイとポール・コネルコとジム・トーミ、ツインズのジャスティン・モーノー、ジョー・マウアーらの名前が挙がっている。
本誌の予想はズバリ、オーティス(9月23日現在、打率・286、52本塁打、133打点)。結果はいかに。
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