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また一人、スーパースターがシカゴから去っていった。大リーグ、ホワイトソックスのフランク・トーマスがその人だ。在籍期間は16年。93、94年には史上11人目となる2年連続MVPを獲得するなど、その存在感は絶大。毎年、200人を超える選手がフリーエージェント(FA)となってチームを移籍するメジャー界では異例の長さだった。
球団がトーマスとの契約を延長する意思がないことを発表したのは昨年11月。06年の契約は相互オプションといって、選手と球団の合意のもとで更新するものだったが、トーマスが残留を希望したにもかかわらず、球団側は拒否。設定された金額は1000万ドル(約11億5000万円)。昨季は左足首のけがでわずか34試合に出場しただけで、87年ぶりのワールドチャンピオンの瞬間もベンチで見守った選手にそんな大金は払えないというのが本音だが、断を下したケン・ウィリアムズGMは「フランクがワールドチャンピオンも含めて、この球団にもたらしたことに敬意を表したい。彼が球団史上最高の打者であることは疑いのないことだが、私はチームにとって最善の選択をしなければいけない立場にある」と、苦しい胸の内を明かした。
90年代のトーマスはえげつなかった。91〜98年まで8年連続100打点。97年には打率・347で首位打者も獲得した。生涯打率(・307)、通算本塁打(448本)、通算打点(1465打点)、通算四球(1466)など、数々の球団記録を塗り替えた。学生時代にフットボールで培ったパワーだけでなく、巧みなバットコントロールと卓越した選球眼で相手投手を痛めつけ、「BIG
HURT」のニックネームで怖れられた。
しかし、この5年間はけがに泣き、いつしか、けがなくシーズンを乗り越えることが目標となっていた。今オフは、打線強化するために右よりも左のパワーヒッターを欲した球団。控えではなく、スタメン出場であと52本に迫った通算500本塁打を一日も早く達成したいトーマス。妥協点を見出せないまま、今回の結論が出たわけだが、将来は殿堂入りの可能性も高いだけに、最後までブラック&ホワイトのユニホームを着続けてほしかったというのがファンの心理だろう。
同じシカゴを本拠地とするカブスには、サミー・ソーサという ”スーパースター“がいたが一連のトラブルでチームを去った。現在、そのカテゴリーに属する選手はいない。ホワイトソックスの主力にポール・コネルコがいるが、真っ先に挙がる名前がオジー・ギーエン監督ではあまりにも寂しすぎる。
トーマスが新天地として選んだの場所は、カリフォルニア州オークランドを本拠地とするアスレチックス。1年契約の年俸はわずか50万(約5750万円)。打席数などに応じて260万ドル(約2億8750万円)のインセンティブがつく変則的な条件とはいえ、満額でも310万ドル(約3億5650万)。前年の年俸(800万ドル)から61%減という破格の金額だ。今季、ホワイトソックスがシカゴでアスレチックスと顔を会わせるのは5月22?24日。グリーン&イエローのユニホームで打席に立ったトーマスを見てシカゴ市民は何を思うだろうか。
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