この度の東北地方太平洋沖地震により被災されました方々に、謹んでお見舞い申し上げますとともに、犠牲になられた方々とご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。 被災地で避難生活をなされている皆様や今だにご家族の安否の確認が取られずに不安な毎日を過ごされている方々には一日も早い援助を望んでおります。
今月から始まった「アサコ先生にちょっと聞いてみよう!」のコラムコーナーですが、通常は読者の皆様から様々なご質問にお答えをするというコーナーなのですが、今月は災害時の心のケアについて少し書かせていただきます。
■直接被害に遭われた方
今回の東北太平洋沖地震、そして過去の阪神・淡路大震災やハリケーンカトリーナのような災害が起きた際に被災した人々に起こりえる心身の反応や症状があります。以下の症状は被災者が生死をさまようストレスや重症を負うような出来事の後に起こる症状です。 |
■近しい方が被害に遭われた方
そして今回の震災でシカゴ近郊や他州に在住している日本人の方々の中には最愛な人を亡くし、喪失状態に見舞われている方もいると思います。このような体験を悲嘆反応(Grief Reaction)といい、自分にとって大切な人や物を失った際に経験をするさまざまな感情の反応をことを言います。最愛な人との突然の死別により、今までには感じたことのない悲しみ、孤独感や絶望感などを感じるのですが、この悲嘆(グリーフ・Grief)は誰にでも起こる正常な反応なことです。何でわたしだけにこの様なことが起きるのだろうか? 自分だけが生きていても意味があるのだろうか? などと思い、怒りさえ感じることもあるでしょう。このような感情は波の様にやってきてこのままずっと悲しみ、怒り、不安などの感情の中をさまよい続けるのだろうか?と思うかもしれません。 まずは悲嘆反応としてどの様な症状がでてくるのかを説明をしたいと思います。1.心理的反応:思慕、感情の麻痺、怒り、罪悪感、自責感、絶望感、非現実感、幻覚、疑い深い、憂鬱、不安、怒り、恐怖、孤独、寂しさ、やるせなさ、故人の面影にとりつかれるなど。 2.身体的反応:睡眠障害、疲労感、頭痛、肩こり、めまい、動悸、のどの緊張感、食欲喪失、体力低下、嘔吐、下痢、血圧上昇、体重減少、胃腸不調、気力喪失、アルコールや薬の依存など。 3.行動的反応:号泣、ぼんやりする、落ち着きがなくなる、より動き回って仕事をしようとする、死別をきっかけとしたうつによる引きこもり、故人の所有物など一時は回避したいと思うが、時が経つにつれていとおしむようになるなど。 人は大切な人を亡くしたことに対しての大きな悲しみを乗り越える心の努力をしようとします。今までには感じたことのない様々な感情や環境変化を受け入れようとする悲嘆のプロセスをグリーフワークといい、このプロセスの期間は個人により異なりますがグリーフ状態は時間と共に癒されるのです。一般的なグリーフワークのプロセスとしては次のようです。 1.ショック期:大切な人を亡くしたショックが大きくこれといったはっきりした反応ではなくて人は茫然となり、無感覚の状態になることです。パニックに陥ったりして物事への正常な判断がしづらいです。 2.喪失期:死を少しずつ受け止める段階。悲しみ、怒り、敵意、自責感などの感情が繰り返し表れます。この段階では深い悲しみが一般的な反応で、しっかりと泣くことが重要と言われています。 3.閉じこもり期:死を受け止めた段階の反面、本来の自分の価値観や生活の意味を失いうつ状態になります。自分の存在すらないような感じになり、時には生前相手に自分がしてやれなかったことを思いだしたり、自分が相手の死因を作ったのではないか?などの自責感に襲われることもあります。 4.癒し・再生期:故人の死を乗り越えて新たな自分の人生へ向かって再出発する時期。このグリーフワークの期間は一般的に言われている時期は配偶者との死別であれば1〜2年、子供の死別であれば2〜5年と言われています。でもこれはあくまでも一般的に言われている数字であり個人によって異なります。 このグリーフワークを見守り支えるのがグリーフケアというものです。日本社会は欧米と比べて悲しいことを悲しいと表現をしてよいという見方をしません。グリーフケアの基本的な考え方としては、悲嘆として表す感情や行動は正常なものだと理解をした上でありのままを受け止めることなのです。様々な感情を経験し、表現することでその人のグリーフワークのプロセスが始まるのです。そして話を聞いてあげること、そばにいてあげることなどでその人が抱いている不安感やショックを抱いている気持ちを和らげることができます。悲嘆を表現するにあたり、詩を書いたり、故人に対して手紙を書くということも効果的です。しかしこのプロセスを踏むにあたり一人でするのではなく、専門家の方に話を聞いてもらうことはとても効果的です。 |
■遠隔地におけるこころのケア
私自身、災害の起こった当時は日本の動画ニュースを分刻みでずっと見続けていました。気がついたらテレビの前で泣いていたり、自分には何もすることがないという絶望感に駆られていました。みなさんもきっと同じような気持ちを抱きながら毎日を過ごされてきたのではないでしょうか?中には家族や知り合いの安否が確認できずにいたり、家族や知り合いが被災者ではなくても今の不安定な日本の状況がストレスとなり、気持ちが晴れず、うつっぽくなったり、食欲がなくなったり、睡眠不足だという方もいるのではないでしょうか? 今回のようなニュースは自分である程度のセルフケアをしておかないとストレスが溜まり通常の生活をするのも精一杯となりかねません。APA(米国心理学協会)では、遠隔地での地震問題にかかわるストレス対処の方法を提案しています。 |
このような状況だからこそ無理をせずに自分を大切にすることが大事です。今回の災害の復興などもまだまだ目処がついていず時間がかかるにようです。こころのバロメーターを計りながらセルフケアを定期的にすることで抱えていたストレスの減少、そしていつもの自分の生活を取り戻せるのです。
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マインドフルプロフェッショナルカウンセリング
保市麻子