〜子どもに期待される大人になりたい〜
私が小さかった頃、父は仕事が忙しく、朝早くから出勤し、夜は遅くまで仕事をしていました。週日は顔をほとんどあわせることがなかったのですが、父の存在は、私の中ではとても大きな存在でした。「今日はパパ、早く帰ってくるのかな?パパが帰ってきたら、また海に連れて行ってくれるのかな?それとも今日は何をするんだろう?」と、毎日うきうきしながら父の帰りを待っていました。でも父が帰ってくるのはほとんど私が眠った後・・・。
子ども達と一緒の時間をほとんど過ごす事のない父でしたが、私達と過ごせる時間があると、彼なりに一生懸命遊んでくれたのを覚えています。 私は、両親と既製の年齢にあったおもちゃで一緒に遊ぶという記憶はあまりないのですが、父親が得意な事をして遊んでくれた思い出は沢山あります。例えば、キャッチボールをしたり、一緒に木の上に基地を作ったり、泳ぎに行ったり、おんぶしてもらったり・・・。本当に少しの時間でしたが、父が許せる限りの時間を私達子ども達に注いでくれていました。だから、父の事が大好きでしたし、今でもとても感謝しています。
先日、あるお母さんから「毎日のように子どもの要求がすごく限度なく、「ママ見てて」「これやって」「一緒に遊ぼう!」と次から次へと子どももいろいろな事を求めてくるし、出来る事なのに、「出来ないからやって!」なんて言われると、「自分でしなさい」とイライラすることがあります。気が付いたら、結局一回も子供と向き合っていなかった。なんていう日ばかりで、後悔しながらも、疲れてしまいます。」という相談を受けました。
日々忙しいお母さん、家事をしながらの子供達の園や習い事の送り迎え、兄弟が多ければ、それだけあちこちにまるでタクシーのように車を運転して、本当に毎日ご苦労様です。家に帰っても、子供達の要求は限度がないでしょう。ついつい忙しい時に言われると、「後でね」と後回しにしてしまったり、「うんうん、すごいね」と生返事をしてしまう事もあると思います。でも、一日一回でもいいので、子どもとしっかり向き合って、子どもの期待ににしっかりと答えてあげると、不思議と子供達は安心してあまりいろいろな事を言わなくなってきます。
幼児期の子供達は自分はいつでもお母さんに見ていてもらえる、という安心感さえあれば、次のステップとして、一人でいろいろな事に挑戦するようになります。子ども達は「こんな面白いことをしたら、お母さん笑ってくれるかな?」「これを見せたら、すごい!って驚いてくれるかな?」と期待して、大人に話しかけてきたり、いたずらをしたりします。そんな時、ぜひ手を止めて、子どもと一緒に喜んだり、びっくりしたりしてあげてください。遠回りのようで、それが子ども達が一人でがんばってみよう。という意欲のもととなり、子供達の自立への近道なのです。
園生活の中でも、私達はいつも子どもの期待に全てこたえられるように、日々努力しています。やろうとしていた活動がそのために全くできない事もあります。でも、一人一人の期待にこたえ続けていくと、不思議と何ヶ月かたつと、みんな安心して子供達同士で遊べるようになるのです。子ども達が私達大人を見る瞳って、期待で満ちています。「先生、今度は何をするんだろう? 僕の名前呼んでくれるかな?」って、目をきらきらさせています。その瞳の輝きに答えるのが大人の役目だと思います。そんなやり取りを通して、子ども達は大人を信頼し、子ども達の期待に応える分、子ども達が大きくなった時、その思い出が感謝の気持ちになったり、次の世代へ伝えていってくれるのではないかと思います。
スクールカウンセラー兼お医者さんの明橋先生が書いた「子育てハッピーアドバイス」という本があります。その本の中で言われているのが、“聞き分けがなく、親にわがままばかり言うのは良く育っている証拠。もし、小さいのに聞き分けがいつもよく、親が忙しそうな時は、いつも一人で遊び、何も言わず手がかからない子は、(どうせ期待しても答えてくれない)と子ども自身があきらめてしまった場合が多い。”と書いてありました。
子どもに期待され、そして、その期待に答えてあげることができる大人でいつもいたいものです。