「無事に男の子が、妻も元気ですし、男の子も元気に出てきてくれました。めっちゃかわいいです。全部がかわいいんでね、できる限り一緒にいたいと思ってしまうぐらいね、髪も短くしてなるべくドライヤーの時間も短くしてます」
興奮気味に冗談とも本気ともつかない言葉で第1子の誕生を報告したのはメジャーリーグ、シアトル・マリナーズの菊池雄星投手だ。
3年前に結婚した元フリーアナウンサーの瑠美夫人が7月8日に3075グラムの男の子を出産。オールスターゲーム開催期間中だったため、自宅のあるシアトルの病院で新しい命の誕生の瞬間に立ち会うことができた菊池投手は自らの手でへその緒を切ったことを明かし、「産声を初めて聞いたときっていうのは(涙が)大変でしたね」と、感動を新たにした。
「激動」。「波乱万丈」。菊池投手にとっての2019年はそんな言葉がぴったり当てはまる。
1月3日、マリナーズの本拠地、Tモバイルパークで入団会見を行った。西武埼玉ライオンズからポスティングシステムを利用してメジャーリーグへ移籍。4年5600万ドルを保障された大型契約は将来のエースになってほしいという球団の期待の表れだった。
3月21日、東京ドームで行われたオークランド・アスレチックスとの開幕シリーズ第2戦でメジャーデビューを果たす。5回途中4安打2失点。自身の勝敗はつかなかったが、チームに勝利をもたらす投球を披露した。
初登板の喜びも束の間、訃報が届く。3月30日、がんで闘病中だった父・雄治さんが他界した。
「生前、父は私に野球に専念し、そのままチームの勝利のために頑張って欲しいと言っていました。私は父の願いに敬意を表し、全力で頑張り、残りのシーズンを父に捧げたいと思っています。」
開幕戦で日本に滞在中に雄治さんを見舞っている菊池投手。チームから発表されたリリースにつづられた言葉は父が遺(のこ)した最期の言葉≠セった。
メジャー初勝利は4月20日のエンゼルス戦。6度目の登板だった。5回を投げ、10安打4失点を許しながら手にしたウィニングボール。「ほっとしているというのが一番正直なところ」と安どの表情を浮かべ、この日まで語ることのなかった亡き父への思いも口にした。
「なりたくてもなれないですね、本当に尊敬してましたし、一番僕に影響を与えてくれた人だと思うので、少しでも父親の背中に追いつきたいなと思いながら日々過ごしている感じですね」。
5月8日のニューヨーク・ヤンキース戦では8回途中3安打1失点の快投で2勝目。しかし、ボールのグリップを効かすため松ヤニを使用していたとの疑いが浮上する。ニューヨークの中継局による疑惑映像はSNSで瞬く間に拡散。大きな物議を醸した。
そんな中、5月19日のミネソタ・ツインズ戦でも好投し、自身3連勝。西武時代同様、エースとしてチームを引っ張るかと思いきや、ここから4連敗を喫する。登板した5試合で9本の本塁打を許すなど、精彩を欠いた。6月23日のオリオールズ戦で4勝目を挙げるも8月13日のタイガース戦まで8試合で勝ち星がなく、今度は3連敗。敗け数は勝ち星を大きく上回り、8となった。
長男が誕生したのは勝つ投球ができず、もがき苦しんでいた時。「新しく環境が変わった1年目で宝ものもできたんでね、忘れられない1年になると思います。結果を出してかっこいい背中を見せられるように、そういう父親になりたいですね」と決意表明した。
その言葉を実現させたのは8月18日のトロント・ブルージェイズ戦。シーズン26度目の登板で初めて9回を一人で投げ切り、2安打無失点で完封勝利を収めた。
「父親はかっこよくなきゃいけないというふうに思ってます。僕は父のことをすごく尊敬してましたし、子供に『いいオヤジ』って言ってもらえるような、そういういい選手でありたいですし、いい父親でいたい」
父親になって初めて勝った。メジャーでもエースの存在になるべく自ら選んだ背番号「18」。息子にかっこいい背中を見せるべく、菊池はこれからも投げ続ける。
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