今季のメジャーリーグは、ボストン・レッドソックスの5年ぶり8度目のワールドチャンピオンで幕を閉じた。レギュラーシーズンで両リーグ最多の108勝を挙げ、球団記録も更新。ニューヨーク・ヤンキースとの地区シリーズ、昨季の覇者ヒューストン・アストロズとのア・リーグ優勝決定シリーズを危なげなく突破した。ワールドシリーズでは1916年以来、102年ぶりの顔合わせとなったロサンゼルス・ドジャースを4勝1敗で下し、勝利の美酒に酔った。
今回が114回目のワールドシリーズ。その長い歴史において新たな記録が生まれたのは第3戦だ。史上最長となる延長18回、7時間20分の試合。レッドソックスが延長12回から翌日の第4戦に先発する予定だったネイサン・イオバルディ投手を9番手で登板させれば、控え野手を使い果たしたドジャースは延長17回の攻撃で代打に第1戦に先発したエースのクレイトン・カーショー投手を起用するなど、「死闘」と呼ぶにふさわしい総力戦となった。
結果はドジャースが延長18回、マックス・マンシー内野手がイオバルディ投手の98球目を左中間席へ叩き込み、3―2でサヨナラ勝ち。敵地ボストンで2連敗を喫した後、戦いの舞台を本拠地ロサンゼルスに移しての劇的勝利。シリーズのターニングポイントとなりうる結末だった。
しかし、この歴史に残る激戦とは異質の衝撃を人々に与えたのは翌日の第4戦だ。試合終盤にツイッターに投稿されたつぶやき≠ノ記者席は騒然となった。
「今、ドジャースとレッドソックスの最後のイニングを見ているところだ」。
そんな一文で始まるツイートをしたのは、ドナルド・トランプ・アメリカ大統領だ。
前日第3戦の試合終了時刻は日付が変わった午前12時30分。第4戦も終盤にレッドソックスが4点ビハインドの状況から追いつく展開とあって、両軍選手の奮闘を称えるねぎらいの言葉でもあるのかと思いきや、一国の長はこう続けた。
「ほぼ7回まで試合を支配していたドジャースのリッチ・ヒルを代え、ナーバスになっている中継ぎ陣がめった打ちされ、4点のリードを失った監督の采配には驚きだ」。
まさか、まさかの采配批判。名前こそ記されていたなかったが、失望の矛先は継投が裏目に出てしまったドジャースのデーブ・ロバーツ監督であるのは明らかだった。
「監督たちはずっと同じことを繰り返している。ビッグ・ミステイクだ!」
意図的だったのか、最後の一文は「Managers」と複数形にして『一般論』として締めたが、監督批判に変わりはない。しかも、当時はピッツバーグのユダヤ教礼拝所で多数の犠牲者を出した銃乱射事件の直後。国内が大きく揺れる中、ワールドシリーズの戦いについても物申す視野の広さを垣間見せたのだった。
前代未聞の大統領による監督批判。政治の手腕には賛否両論があるようだが、ツイートにつづった指摘はしっかり的を射ていた。
試合は6回を終えてドジャースが4―0でリード。先発のヒル投手が5回1死までレッドソックス打線を無安打に抑える快投を見せていたが、4―0の7回1死一塁の場面でロバーツ監督はベンチから飛び出し、交代を告げた。球数は降板の目安となる100球に近い91球。判断が難しいところではあったが、ここで左のヒル投手に代えて同じ左のスコット・アレクサンダー投手が投入された。ところが、ストライクが1球も入らずストレートの四球。すぐさま右腕のダニエル・マドソン投手にスイッチしたが、2死一、二塁から代打モアランドに3ランを浴びてしまう。
そして、1点リードの8回。ロバーツ監督は前日と同じ状況で同点ソロを許し、延長戦のきっかけをつくってしまった守護神ケンリー・ジャンセン投手を再び、マウンドに送った。が、しかし、1死から3番スティーブ・ピアース選手に一発を浴びる。2試合連続で勝利の方程式が崩壊。同点の9回に前田投手を含む3人の中継ぎ陣が一気に5点を奪われ、勝敗は決した。
結果論ではあるが、トランプ大統領のツイートは的外れではない。「いいね」をクリックした15万3000人はトランプ支持者だけではなかったはずだ
試合後の記者会見。シリーズ3敗目を喫し、追い詰められたロバーツ監督は一人の記者からツイートの内容を聞かされ、「大統領がそう言ったの?」と少し驚いた様子を見せ、「この試合を見てくれていたのはうれしいですね」と続けた。
トランプ大統領も注目したワールドシリーズ。就任1年目のレッドソックスのアレックス・コーラ監督は史上初めてプエルトリコ出身の優勝監督となった。記録と記憶に残るシリーズになったことは間違いない。
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