メジャーリーグが開幕して10日あまり、最も話題になっている選手はだれか。間違いなく、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手だ。
3月号の特集記事でも取り上げた、打者と投手、2つの役割を一人でこなす『二刀流選手』。メジャーリーグの歴史をひも解けば、これまで二刀流選手は存在したが、先発投手と打者の両方で結果を残した選手に挙がるのは、ニューヨーク・ヤンキースへ移籍する前にボストン・レッドソックスでプレーしていた『野球の神さま』ベーブ・ルースだ。投打で活躍したのは1915年から19年までの5シーズン。大谷選手がメジャー100年ぶりの二刀流選手と言われている理由だ。話は少し脱線するが、ルースはヤンキースへトレードされた20年以降は打者に専念し、1974年にハンク・アーロン選手に塗り替えられるまでのメジャー記録だった通算714本もの本塁打を打っている。
さて、大谷選手だが、なぜそこまで話題になっているのか。才能豊かな逸材としてメジャー30球団のほとんどが獲得に動いたというオフ・シーズンの経緯、ルース選手以来となる二刀流選手というだけが理由ではない。
開幕前に出場したオープン戦の成績があまりにも悪かったからだ。
打者としては11試合に出場して打率・125(32打数4安打)。総打席数の3分の1にあたる10打席で三振をした。4本のヒットはすべてシングル。ホームランどころか二塁打さえ打てないお粗末な内容だった。
投手としてはどうだったか。こちらも目も当てられない数字が並ぶ。マイナー選手やメキシカンリーグの選手を相手にした練習試合を含めて5試合、計13回を投げて19失点。中でも昨年のナ・リーグ首位打者、チャーリー・ブラックモン選手や、15、16年に本塁打と打点のタイトルを獲得したノーラン・アレナド選手ら、メジャーリーガーたちが出場した3月16日のロッキーズ戦では2回途中7失点KO。2回にホームランを2本も許すなど、集中打を浴びる散々な内容にアメリカのメディアは大谷選手を「まだメジャーでは通用しない」、「マイナーで育てるべきだ」などと酷評した。
周囲を納得させる成績を残さなかったにもかかわらず、大谷選手はメジャーの開幕ベンチ25人の中に入った。当然、ここでも「ありえへん!」の批判の声が上がった。そんな周囲の雑音をよそに選手、球団ともに「結果よりもプロセス」と訴え続け、表面的な数字には見向きもしなかった。
そして、迎えた3月29日、オークランドで行われたアスレチックスとの開幕戦。大谷選手は「8番・指名打者」でまずは打者でメジャーデビューを果たした。2回に迎えた最初の打席で初球を打って右前打。この日は4回以降の残りの4打席は凡退したが、まずは1本出したことは大きかった。
その時点で4月1日の試合に先発することが決まっていた大谷選手は投手として調整するため、続く2試合を欠場。迎えた投手としてのデビュー戦。敵地の雰囲気に飲まれることなく、6イニングを3安打3失点でメジャー初登板初勝利を手にした。
3点を失った2回以外の5イニングはいずれも無失点。わずか2週間前に2回をもたずに酷評された投手の姿はそこにはなかった。
そして―。日本は言うまでもなくアメリカでも「OHTANI」の名前を轟かせる時がやってくる。
迎えた4月3日、カリフォルニア州アナハイムでのクリーブランド・インディアンス戦。ホームデビュー戦で3月29日以来の打者として出場した大谷選手が1回の打席で、なんと、ホームラン!
オープン戦での36打席。調整のために打席に立った実戦を加えて62打席で1本もでなかったホームランがついに出たのだ。アナハイムのファンが興奮しないはずがない。全員が立ち上がってスタンディングオベーション。一旦、ベンチの中に入った大谷選手がカーテンコールを受けてベンチから飛び出し、ヘルメットを揚げるとスタンドはさらに沸いた。その日は3回と8回にもヒットを打って1試合3安打。華々しい本拠地デビュー戦だった。
それだけでは終わらない。次の日も、
そして、その次の日もホームラン。メジャーの歴史上、過去に3人しかやっていない、本拠地デビューから3試合連続本塁打という快挙を成し遂げたのだ。
まだ続く。投手として2度目の登板となった8日のオークランド・アスレチックス戦で7回途中まで1人も走者を出さないパーフェクトゲームを披露。結局、7回1死からレフト前へヒットを打たれたが、7回1安打無失点12三振1四球。堂々の投球内容で2勝目を挙げた。もうそこに批判の声なんてあるはずがなかった。
チームは開幕戦こそサヨナラ負けで落としたが、その後、大谷選手が出場した5試合で全勝(4月8日現在)。それは決して偶然ではない。間違いなく、チームに化学変化を起こしている。
開幕10試合で2勝&3本塁打は1919年のジョー・ショー投手(ワシントン・セネターズ)以来、99年ぶりの快挙となった。ただし、ジョー投手は二刀流選手ではなく、その試合でたまたま3本のホームランを打ったピッチャーだった。
大谷選手がメジャーの歴史を次々に掘り起こしている。
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