メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースは世界一の野球チームだ。
アメリカの経済誌「フォーブス」によると、その資産価値は2位のロサンゼルス・ドジャースの27億5千万ドル(約3025億円)を大きく上回る37億ドル(約4070億円)。NFLのダラス・カウボーイズには及ばないものの、サッカーのマンチェスター・ユナイテッドやバルセロナよりも大規模なスポーツチームでもある。
ワールドチャンピオン27回はセントルイス・カージナルスの11回の2倍以上。かつて『常勝軍団』と呼ばれた所以はここにある。世界的宝飾品ブランド、ティファニーのデザインによる「NY」のロゴが入った帽子とピンストライクのユニホームは野球選手にとっての憧れ。現在、チームには田中将大投手が所属するが、過去には伊良部秀樹投手や松井秀喜外野手、井川慶投手、黒田博樹投手らもプレー。イチロー外野手が11年半所属したシアトル・マリナーズからトレードで移籍した球団もヤンキースだった。
そのヤンキースのプライドをズタズタにした選手がいる。
北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手がその人だ。先発投手と外野手、指名打者を兼任する二刀流。世間をアッと驚かせた出来事はポスティングシステムを使ってメジャーリーグ球団へ移籍する手続きを取った直後に起こった。
同システムでは日本ハムが設定した上限2000万ドルの譲渡金を支払う意思を見せれば、大谷選手との交渉の席に就くことができる。メジャー全30球団のほとんどが獲得に動いたとされる中、12月2日、一次選考≠フ書類審査をパスした球団名が明らかにされた。
ロサンゼルス・エンゼルス、サンディエゴ・パドレス、テキサス・レンジャーズ、シアトル・マリナーズ、ロサンゼルス・ドジャース、シカゴ・カブス、サンフランシスコ・ジャイアンツの7球団。
そう、そこにはヤンキースの名前が入っていなかったのだ。9月にはブライアン・キャッシュマン・ゼネラル・マネジャー(GM)が来日し、同選手が出場した試合を観戦。本気度を示した。交渉が解禁された日にはビルの屋上から「オオタニサン、我々はこの瞬間を待っていました」などと叫び、誠意をアピールした。そんな矢先のことだった。
大谷選手が後日、面談した7球団はそのほとんどが西海岸を拠点にする球団で、ニューヨークほどの大きな規模の都市ではない。余程、悔しかったのだろう。キャッシュマンGMは地元メディアを前に「この球団が大規模な都市で、東海岸に位置することは変えようがない」と皮肉たっぷりに敗戦の弁を述べた。¥段落¥
大谷選手の予想移籍先をことごとくヤンキースとしていたメディアもこの結果を驚きをもって伝えた。しかし、そこでとどまらないのがニューヨークのメディアだ。ニューヨーク・デイリーニューズ紙は翌日のスポーツ面の表紙に同選手の写真と「WHAT
A CHICKEN!(臆病者だ!)」との大見出しで報道。同投手が日本で継続してきた二刀流をメジャーでも実現させることを重視して球団選びをしていることを忘れてしまったかのようなブーイングだった。
ただ、選手側にも突っ込みどころはあった。面談を実施した7球団の中に東海岸を拠点とする球団がゼロだった点だ。11月24日に全30球団に質問状を送付し、早期回答を求めた点は平等性をアピールする上で大切なことだったが、せめてこの時点で「東海岸球団お断り」と通達すべきだった。質問状への回答、つまり、書面によるプレゼンテーションは英文と日本文の両パターンを要求したという。そのために各球団がどれほどの人員と時間を割いてきたかを想像すると気の毒でならない。なんとも後味の悪いものとなった。
メジャーリーグでは、かの有名なベーブ・ルースがヤンキースへトレードされる前、レッドソックスでプレーした1919年以来、100年ぶりに誕生しようとしている二刀流選手。大谷選手が最終的に選ぶ球団は?野球の神様≠フ再来は本当にあるのか?
ヤンキースが除外されたことで大谷狂騒曲≠ェさらに盛り上がりを見せたのは間違いない。
|