やりきれない。悲しい気持ちと悔しい気持ち。テレビが伝える「BREAKING NEWS」に言葉を失った。
9月25日朝、メジャーリーグ、マイアミ・マーリンズのホゼ・フェルナンデス投手が死んだ。
フロリダ州マイアミビーチ近くの海で起こった船舶事故。午前3時すぎ、通報を受けた沿岸警備隊が、岩礁に乗り上げ、船底が上を向いた状態のレジャーボートを発見した。犠牲者は男性3人。その中の1人がフェルナンデス投手だった。死因は溺死ではなく、外傷によるもの。フルスピードで岩に衝突し、全身を激しく打ちつけたようだ。
ボートの所有者は同投手であることが明らかになった。おそらく、ボートに乗ったのはこの日が初めてではなかったはずだ。これまで無事故だったとはいえ、なぜ視界の悪い真夜中に乗ったのか?そんな疑問が頭から離れなかった。
まだ24歳。今季はここまでチーム最多の16勝を挙げていたエースの突然の死。本拠地マーリンズパークで行われた緊急記者会見で、ドン・マッティングリー監督はずっと泣いていた。婚約者が妊娠しているという事実が悲しみを深くした。マイケル・ヒル編成本部長は残された家族の話を口にした途端、言葉が出なくなり、顔をゆがめて号泣した。黒のユニホームをまとい、会見に同席した選手たちの目は赤く充血していた。
キューバで生まれたフェルナンデス投手。15歳の時にアメリカに亡命した。4度目の挑戦だった。フロリダ州タンパの高校でピッチングに磨きをかけた。「メジャーリーガーになるのは夢だった」。本人からそんな話を聞いたのは今年3月のキャンプの時だ。
2011年のドラフトでマーリンズから1巡目、全体14位で指名を受けた。13年にメジャーデビューし、12勝を挙げて新人王を獲得。14年は開幕直後に右肘を痛め、じん帯再建手術を受けた。球団は入団直後から年間投球回数を制限し、肩や肘には細心の注意を払ってきた。フェルナンデス投手の右肘手術の一報は関係者に衝撃を与えた。メジャーリーグ機構と米国野球連盟が18歳以下のアマチュア投手を対象にしたけが防止のためのガイドラインを作製する大きなきっかけになった。
昨年7月に右肘手術から復帰し、6勝を挙げた。今季は開幕から勝ち星を重ね、オールスターゲームにも出場するほどの活躍を見せていた。そんな矢先の悲劇だった。
その死から一夜明けの26日、マイアミでニューヨーク・メッツとの試合が行われた。マーリンズの選手や首脳陣は背中に「16 FERNANDEZ」と入ったユニホームを着用した。プレーボール直前には同投手が先発として立つはずだったマウンドを取り囲むように円陣が組まれ、追悼した。中には泣いている選手もいた。
初回の攻撃。先頭打者のディー・ゴードン内野手が今季初本塁打を放った。ホームベースを踏んだ瞬間、大粒の涙を落とし、ベンチに戻ると他の選手と一緒に泣き崩れた。
時速100マイルの剛速球と多彩な変化球で三振の山を築いたフェルナンデス投手。ピンチを切り抜ければ、雄叫びを上げ、派手なガッツポーズを見せた。打っては常にフルスイングで観客を沸かせた。
マウンドを降りれば、陽気な青年だった。だれかれかまわず、大声で話し掛け、ジョークを言い合ってよく笑っていた。太陽のような存在。チームメートが抱く喪失感は相当なものだった。
球場のホームベース入口近くの一角が献花場となった。数え切れないほどの弔花とメッセージが添えられた。その中に「流れ星」という言葉があった。強烈な光を放ち、瞬く間に消えたフェルナンデス投手。その雄姿は人々の心の中に永遠に生き続ける。
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