子供をもつ同じ親として気持ちはわからなくもない。しかし、何度考えても同情する気にはなれない。
メジャーリーグの開幕を約2週間後に控えた3月15日、シカゴ・ホワイトソックスに所属していたアンディ・ラローシュ内野手が突然、引退の意思を表明した。
今年がメジャー13年目となるはずだった36歳のベテラン。パワーヒッターとして6年連続を含む、通算10度のシーズン20本塁打を記録した。ワシントン・ナショナルズ時代の2012年には打率・271、33本塁打、100打点をマークし、守備と打撃を称えるゴールドグラブ賞とシルバースラッガー賞を同時に受賞した。
ホワイトソックスとは2014年オフに2年2500万ドルで合意。指名打者兼一塁手、打線の中核として大きな期待を集めた。ところが、移籍1年目の昨季は127試合出場で打率・207、12本塁打、44打点。ブーイングに値するコストパフォーマンスの悪さ。自己ワーストシーズンの成績でシーズンを終えた。
さぞかし、今季はリベンジに燃えているに違いない。そんな矢先の引退宣言だった。
体力の限界を感じた。野球への情熱が失(う)せた。人知れずけがをしていて万全な状態には戻れない。さまざまな理由が想像されたが、不可解だったのは保障されていた年俸1300万ドルを放棄したことだ。
それだけでも十分驚くべきことだが、後日、明かされた引退理由に世間は仰天した。
ホワイトソックスの副社長、ケニー・ウィリアムズ氏が言及したのは、同選手の息子、14歳のドレーク君のことだ。昨季はシーズン全試合に帯同することを許していたのを今季は禁止するという球団の方針にラローシュが激怒。引退を決意するに至ったのだという。
ドレーク君は父と同じ背番号「25」のユニホームを支給され、クラブハウスには父の隣にロッカールームもあてがわれていた。当然、遠征は同じチャーター機で移動した。チームのマスコット的存在だったと言われていた。
ここでSNSが威力を発揮する。そのニュースを伝え聞いた他の選手たちが敏感に反応。自身のツイッターやフェイスブックでラローシュの英断≠賞賛するコメントを発信した。子供思いの父、家族愛、…。美談として大きく取り上げられた。
中にはここぞとばかりに球団、いや、ウィリアムズ批判を展開する選手もいた。ホワイトソックスのエース、クリス・セール投手だ。ウィリアムズ氏が子供を帯同させない方向にもっていくために裏で手を回し、嘘つき≠セと主張。チーム内が大混乱した。
球団は翻意を期待して選手に冷却期間を与えたが、意思は固く、引退が正式に発表された。発表後に公の場に現れたラローシュは引退の理由が家族にあったことを改めて説明。息子を思う父の気持ちを言葉にした。
物事の良し悪しを判断する時、たら・れば≠ヘ決してよくはないが、もし、昨季のラローシュの成績がよければ、チームの戦績が76勝86敗で低迷していなければ、球団もこのような判断を下さなかったのかもしれない。
ただ、自分の職場に息子を連れて出勤する同僚がいたら、と考えてみる。
やっぱり、嫌だ。
しかも、高給取りで仕事のできない同僚。会社の景気もパッとしない。
自分がラローシュの立場なら、息子を説得して帯同させる回数を減らしただろう。ただ、それができる人間なら契約条項に「息子の帯同許可」を入れるようなことはしないだろう。
14歳と言えば中学生だ。ある程度は思慮分別ができる年齢だ。
父は息子のために野球をやめた−。
ドレーク君の将来が心配になってきた。
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