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野球界にはピッチャーへの究極の選択としてこんな質問がある。
「27球全部打たせて27個のアウトを取るピッチングと、3球三振(81球)で27個のアウトを取るピッチング。やりたいのはどっち?」
野球とは9回の攻撃でいかに相手よりも多く点を取るかを競うスポーツであり、いかに相手に点を与えずに1イニング3アウト×9イニング=27アウトを取るかを競うスポーツでもある。
先の質問は、どちらも100年以上の歴史を誇るメジャーリーグにおいていまだかつて達成されたことのない記録だ。今後もその可能性は限りなく0%に近く、捉え方を間違えると愚問となる。
では、なぜこんな質問が存在するのか。実は、この二択はその投手が理想とする投球スタイルを聞き出すためのもの。
前者は打者が手を出したくなるストライクゾーンをわずかに外すコースにボール投げることでバットの芯を外して打者を翻ろうするタイプ。後者は想像を絶する球速と球のキレでバットに当てさせずに打者をねじ伏せるタイプ。日本では「技巧派」、「本格派」という言葉で区別されているが、その投手のもつ投球哲学を知るきっかけになるというわけだ。
そこに共通するのは相手に1本もヒットを打たせないピッチング。野球用語でいう「ノーヒットノーラン(無安打無得点試合)」だ。省略して「ノーノー」とも言われることもあるが、その中でも四死球やエラーで打者を1人も塁に出さないものを「パーフェクトゲーム(完全試合)」と呼ぶ。
さて、今季のメジャーリーグでは9月1日現在、6人の投手がノーノー≠やっている。8月30日のロサンゼルス・ドジャース戦で成し遂げたシカゴ・カブスのジェイク・アリエッタ投手が記憶に新しいところだが、実は、8月はわずか10日ほどで3人の投手がその偉業を達成している。
12日にシアトル・マリナーズの岩隈久志投手がボルティモア・オリオールズ戦で、21日にはヒューストン・アストロズのマイク・フィアーズ投手がドジャース戦で、その9日後にはアリエッタ投手がやっている。偉業ラッシュに沸いたその陰でドジャースは10日間で2度も無安打に封じられた史上初のチームとして大きな話題にもなった。
シーズン最多は1884年の8人。近代野球と呼ばれる1900年以降では1990、91、2012年の7人が最多だ。今季に限って言えば、リーグが推し進める『時間短縮』が1つの要因になっていることは間違いない。試合を早く進めるために最も効果的な手段はストライクゾーンを拡大すること。広くすれば打者はヒットにするには厳しいコースでも手を出さなくてはいけなくなり、必然的にアウトになる可能性が高くなる。それが試合のペースアップにつながる。投手と打者、どちらに有利に働いているかは論じるまでもない。
公式記録として残る最初のノーヒットノーランは1876年7月15日。セントルイス・ブラウンストッキングスのジョージ・ブラッドリー投手がハートフォード・ダークブルース戦で達成して以来、のべ293回。「のべ」としているのは、複数回を記録している投手がいたり、複数投手による継投でやっていたりする場合があるからだ。最少投球数や最多奪三振に関するデータがないのは、その過程がどうであれ、相手を無安打に抑える自体が偉大な記録だからだろう。
史上最多達成回数はノーラン・ライアン投手の7回。その後に続くのが、サンディ・コーファックス投手の4回だ。ノーヒットノーランのニュースに触れるたびにライアン投手の偉大さを思い知らされる。 |