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ジャンカルロ・スタントン。
メジャーリーグ、マイアミ・マーリンズの不動の3番打者。25歳の若き主砲である。
本名はジャンカルロ・クルーズ・マイケル・スタントン。愛称はファストネーム「GIANCARLO」の頭文字を取って「G(ジー)」。昨季終盤に顔面に死球を受けて歯を5本も折った。シーズン最後の約1カ月を棒に振った。今季はオープン戦からヘルメットと一体型になったフェイスマスクをつけて打席に立っている。マスクの部分は「G」をかたどったデザイン。なかなかのオシャレさんである。
一躍、時の人となったのは昨年11月。プロスポーツ史上最大規模となる13年3億2500万ドルで契約を延長した。今季の年俸は650万ドルとおとなしめだが、2018年から2500万ドル、10年目の2023年からは3200万ドルまで上昇する。10年後と言えば、スタントン選手が35歳のシーズンである。過去に大型契約を結んだ選手たちの顛末(てんまつ)≠見れば、大方の結論は予想できるが、そんなことはどうでもよい。たった1人で、しかも25歳の若さで400億円もの金を動かしたことが快挙なのだ。
スタントン選手の魅力。それは、なんと言ってもホームランだ。昨シーズンは37本塁打で初めてホームラン王に輝いている。先に書いたように死球を受けてシーズン最後の約1カ月間はプレーしていないにもかかわらず、である。
普通のホームランバッターではない。アメリカのメディアがことさらスタントン選手のホームランに注目するのは、その飛距離だ。今シーズンはここまで(5月31日現在)、リーグ全体で3位タイの15本のホームランを放っている。ESPN Home Run Trackerの飛距離ランキングによると…。
1位アレックス・ロドリゲス(ニューヨーク・ヤンキース) 477フィート(約145.4メートル)
2位スタントン 475フィート(約144.8メートル)
3位スタントン 474フィート(約144.5メートル)
4位ジョシュ・ドナルドソン(トロント・ブルージェイズ) 469フィート(約143メートル)
5位スタントン 467フィート(約142.3メートル)
そう、5本のうちの3本がスタントン選手によるものである。
2012年8月17日にデンバーのクアーズ・フィールドで記録した494フィート(約150.6メートル)は最近6年で最長不倒記録。つまり、打球を遠くへ飛ばす能力をもった打者なのだ。
その肉体を見れば、理由が分かる。身長198センチ、体重108キロの肉体美はすでに雑誌で披露されているが、肩、腕、胸、腹、太もも、ふくらはぎ…、どの部位をとっても筋肉増強剤で作られたものとはまったく異なる、バランスのよい筋肉のつき方をしている。まさに芸術作品。ギリシャ神話に登場する神を連想させる。
筋骨隆々の肉体から放たれる打球はすさまじい。スピード、伸びが他の選手と明らかに違うのだ。スタントンの打球≠ニいうやつである。
ポスト・ステロイド時代と呼ばれている。マーク・マグワイア、サミー・ソーサ両選手がし烈なホームラン王争いを繰り広げたのが1998年、バリー・ボンズ選手が1シーズンで73本ものホームランを打ったのが2001年だ。どんな手段であれ、ホームランを打つ者はスター選手だ。禁止薬物使用で昨シーズン全162試合の出場停止処分を受けたヤンキースのロドリゲス選手がそれを証明している。野球のルールを知らない人でもよく分かるホームランは、やはり、『野球の華』なのだろう。
外野席へアーチを架けるように打球を放つことから日本ではホームランバッターにアーチスト≠ニ言う言葉を用いることがあるが、スタントン選手は真のアーチストだ。スタントンが所属するマーリンズが7月3〜5日にカブスとリグレーフィールドで戦う。同球場の最深部はセンターの400フィート(121.9メートル)。場外弾があっても不思議ではない。カブスにとって勝たなければいけない敵ではあるが、独立記念日の花火の前にスタントン選手が打ち上げる一発をサカナに一杯やるのも悪くない。 |