これは一大事かもしれない。
同じメジャーリーグの試合を観るなら日本人選手のプレーを見たい。そう思っている人たちにはとても残念な現象が起こっている。
3月号の特集では今季の活躍が期待される12人の日本人選手を紹介したが、今季のメジャー30球団の今季の開幕ベンチ入りを果たしたのは6人。過去の日本人メジャーリーガーの歴史を遡(さかのぼ)れば、1999年シーズンの伊良部秀輝(ニューヨーク・ヤンキース)、木田優夫(デトロイト・タイガース)、野茂英雄(ミルウォーキー・ブルワーズ)、長谷川滋利(アナハイム・エンゼルス)、マック鈴木(カンザスシティ・ロイヤルズ)、吉井理人(ニューヨーク・メッツ)の6投手以来、実に15年ぶりの少なさとなる。
15年前と言えば、野茂投手の活躍から5年が経過。パイオニア≠フ後を追うようにして日本人選手がメジャーに挑戦し始めたころ。まだ日本人の野手はいなかった時代でもある。
ところが、今は違う。2001年のイチロー外野手(当時シアトル・マリナーズ、現ヤンキース)の成功を機に日本人野手もメジャーを目指すようになり、どの球団に日本人選手がプレーしていても当たり前になっている。
今シーズンの開幕メンバーに入った6人とは、ヤンキースのイチロー外野手、田中将大投手、黒田博樹投手、ロイヤルズの青木宣親外野手、そして、昨季のワールドチャンピオン、ボストン・レッドソックスのブルペンの柱、上原浩治、田沢純一両投手だ。
では、メンバー入りできなかった選手たちになにが起こったのか?
まずは、けが。開幕を前に故障者リスト入りが決まったのはテキサス・レンジャーズのダルビッシュ有とマリナーズの岩隈久志両投手だ。共通するのは、どちらも試合の中ではなく、フィールド外でけがしていることだ。
ダルビッシュ投手は寝違いによる首痛。岩隈投手はオフの自主トレーニング中に利き手の右手中指をネットに引っ掛けての靭帯損傷。肘や肩のけがではなかったのは不幸中の幸いだ。
昨季はどちらも好成績を残し、年間最優秀投手に与えられるサイ・ヤング賞の投票でダルビッシュ投手は2位に、岩隈投手は3位に入った。特にダルビッシュ投手は今季の同賞最有力候補に挙がっている。受賞すれば日本人選手では史上初の快挙でもある。開幕の出遅れが投票に影響しないことを祈るばかりだ。
故障者リスト入りしている選手の中にはシカゴ・カブスの藤川球児投手もいる。こちらは昨年6月に右肘を手術。シーズン終盤の復帰を目指してリハビリ中だ。
もうひとつの理由は、メジャーに昇格できなかったパターンだ。今年のメジャーのキャンプには、チームとマイナー契約を結び、招待選手(invitee)として参加している選手が6人いた。オープン戦の結果次第では、開幕メンバー25人に入れるべく、メジャー契約を結び直す。逆に成績を残さなければ、そのままマイナーのキャンプへ送られるか、クビになる。カブスの和田毅投手とトロント・ブルージェイズの川崎宗則内野手はそれぞれの傘下の3Aへ、過去にメジャー通算50勝を挙げているブルージェイズの大家友和投手は戦力外通告を受けた。
悔んでも悔やみきれないのは、好結果を残しながらもメジャーに残れなかった選手たち。メッツの松坂大輔とヤンキースの建山義紀の2人の投手がそうだ。特に松坂投手はオープン戦で6試合に登板し、1勝1敗、防御率3・04。開幕2日前に先発した試合では5回5安打8奪三振で無失点。「メジャー昇格決定」と大々的に報じたメディアがあったが、マイナー行きを通達された。
チームの方針や事情など、理由はさまざまだが、その一つとしてあるのが、メジャー登録が可能な40人枠だ。通常、招待選手をメジャーに昇格させるためには1人の選手を40人枠から外してその場所を空ける手続きを取らなければならない。登録されている40人は球団選りすぐりの選手たちばかり。枠から外すと他球団に奪われる可能性が高く、そう簡単に入れ替えることはできないというのが実情だ。
「結果を残せば、メジャーに上がれるという世界ではない。マイナー契約の選手は突出したものが必要なんです」。
そう話したのは開幕5日前に3A行きを命じられた建山投手である。
メジャーの壁≠ヘ、周囲、そして、選手本人が想像する以上に厚い。けがをした者、マイナーに落ちた者、再び、メジャーの舞台に上がるための我慢の日々が続く。メジャーの開幕メンバーに入ることは至難の業というわけだ。
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