|
シカゴ・カブス55%、ニューヨーク・ヤンキース25%、シアトル・マリナーズ5%、ロサンゼルス・ドジャース3%、ロサンゼルス・エンゼルス3%。
あるスポーツサイトがはじき出したこれらの確率。何を表しているのか、ピーンときた読者はかなりのメジャー通だ。答えは、日本プロ野球(NPB)、楽天ゴールデンイーグルスのエース、田中将大(まさひろ)投手の移籍先だ。
昨年12月に発効されたポスティングシステム(入札制度)の新制度で楽天からメジャーリーグの球団への移籍を目指す同投手との交渉が12月26日から始まっている。交渉期間は30日。今月24日が締め切りとなる。
ESPNやFOXスポーツ、CBSスポーツといった大手のスポーツ専門サイトではなく、「あるスポーツサイト」までもが確率を出しても移籍先の予想するほど注目度が高いのは、契約の総額が1億ドル(約105億円)を超えると言われているからだ。中には1億5千万ドル(157億5千万円)と予想するメディアもある。
まだメジャーで1球も投げていない投手なのに…。そんな声も聞こえてきそうだが、これから挙げる理由を知れば、納得できるだろう。
24勝0敗1セーブ、防御率1・27
昨季の田中投手の成績だ。28試合に登板(先発は27試合)して1度も負けていない。日本とアメリカ。野球の質に違いはあったとしてもこの数字が意味をもつのかを説明する必要はないだろう。
メジャーリーグに目を移せば、日本人投手の活躍は目覚ましいものがあった。アメリカンリーグの最優秀投手に当たるサイ・ヤング賞の投票結果ではテキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手が2位、シアトル・マリナーズの岩隈久志投手が3位に入った。最多得票はデトロイト・タイガースのマックス・シャーザー投手だったが、上位3人に2人の日本人投手が入ったことは快挙と言っていい。また、ボストン・レッドソックスをワールドチャンピオンに導いた抑えの上原浩治投手と中継ぎの田沢純一投手の好投も光った。日本で育った投手がいかに優秀であるかを改めて認識させた。
今オフからポスティングシステムの制度が変更された。
「入札金上限なしの独占交渉権」から「上限2千万ドル(約21億円)を支払えればどの球団も交渉可能」となったのだ。。06年オフにレッドソックスへ移籍した松坂大輔投手や3年前にレンジャーズと合意したダルビッシュ有投手の入札金が5千万ドル(約52億5千万円)に達したことを考えると、球団は資金を選手との契約に投じやすい。複数球団との交渉になれば、マネーゲームに発展していくのは当然の流れだ。
需要と供給の問題も大きく影響している。
毎年オフになると、各チームが率先して補強するのが先発投手だ。しかし、今オフのフリーエージェント(FA)選手の中に“なにがなんでも欲しい”という投手が少なかった。好例がオークランド・アスレチックスと2年2200万ドル(約23億1千万円)で合意したスコット・カズミア投手だ。昨季はクリーブランド・インディアンスに所属し、マイナー契約から先発の座をつかみ、10勝9敗、防御率4・04。まだ29歳とはいえ、2年前に左肩のけがから不振に陥り、12年は独立リーグで投げていた選手に1年平均1100万ドルもの大金を出す。それほど人材は不足していたということになる。
そこに現れたのが日本では無敵の投手だ。さらに25歳と年齢が若い。
突然だが、『ハンカチ王子』を覚えているだろうか。2006年夏の甲子園、決勝で北海道・駒大苫小牧高校を延長再試合の末に下した早稲田実業の斎藤祐樹投手だ。マウンド上で青いハンドタオルをポケットから取り出し、額の汗をぬぐい、一躍、時の人となった。その斎藤投手に投げ負けたのが田中投手だった。
早大に進んだ斎藤投手に対し、田中投手は楽天へ入団。プロ7年間で99勝35敗。先発した172試合のうち53試合で完投している。アメリカのメディアの中には高校時代を含め、日本での投球過多を危惧する報道もあるが、25歳の若さは大きな魅力だ。
若返りをはかって再建途中にあるカブスが昨年11月に他の29球団に先駆けて田中獲得を宣言したのも年齢が一番の理由だった。
ただ、興味深いのはシカゴの地元メディアの反応だ。一様に「厳しい」という論調だ。「口だけだろう」といった辛口意見もある。複数球団による争奪戦は必至。ヤンキース、ドジャース、エンゼルス、マリナーズ、…。ライバルはいずれも資金が豊富な球団だ。1年平均2000万ドル(約21億円)もの大金をねん出できるわけがないというのが地元メディアの見方だ。
しかし、カブス55%を示した“あるスポーツサイト”insidethezona.comはその根拠を説明している。「2009から11年までの総年俸が1億3400万ドル(約140億7千万円)だったのが、この2年は1億1千万ドル(約115億5千万円)に抑えている。使う金はある」と。
シカゴ・トリビューン紙が実施したユーザー・アンケート「どのチームがマサヒロ・タナカとサインするか?」の投票結果を見る。
カブス40%、ヤンキース30%、ドジャース18%…。
12年のオフ、阪神タイガースからFAになった藤川球児投手は複数球団が提示したオファーの中からカブスを選んだ。果たして、田中投手が選ぶのは…。5年1億ドル、6年1億ドル、7年1億5千万ドル…。大ニュースになることは間違いない。
|