バックスクリーンの左にはためくアメリカ合衆国の国旗が印象的だ。
メジャーリーグ、デトロイト・タイガースの本拠地コメリカパークは今シーズン最後の試合となったワールドシリーズ第4戦の舞台でもあった。チームはサンフランシスコ・ジャイアンツに4連敗を喫し、1984年以来のワールドチャンピオンの夢は呆気なく散った。憎しみさえ抱きかねない敵軍が歓喜する様子を目の当たりにすることほど、地元ファンにとって不幸なことはない。静まり返る客席と喜びを爆発させる選手たち。これは今に始まったことではないが、改めて異様な光景であることを実感させられる。
コメリカパークにはためく星条旗。高さ20メートルはあろうかという緑色のポールに掲げられたそれはかつて外野フェンスの内側、フィールド側に立っていた。だから、この球場を訪れた時はいつもヒヤヒヤしたものだ。無我夢中で打球を追った外野手がポールに激突するんじゃないか、と。このヒヤヒヤは、ヒューストン・アストロズのホーム、ミニッツメイド・パークのセンター後方にある坂で外野手が転ぶんじゃないか、の比ではない。僕の中では、プロレスの場外乱闘における鉄柱攻撃で額をパックリ割って大流血するようなものだったからだ。
しかし、その心配は数年後、必要のないものになった。2003年のシーズンから深緑の鉄柱は外野フェンスの向こう側になったからだ。一番の理由は、実際にポールに激突して流血した選手が出たからではなく、左中間のフィールドがあまりにも広すぎてホームランが出なくなったからだった。それはシーズン別のチーム成績を見れば一目瞭然だ。前本拠地のタイガースタジアムの1999年のチーム本塁打数が118本だったの対し、コメリカ元年の2000年のそれは69本に激減。その後も01年58本、02年61本、とほぼ横ばい状態が続いた。こうなれば、投手有利になってもいいはずだが、チーム防御率も00年こそ前年の5.09から4.39まで下げたものの、その後は悪化の一途。チーム成績も3位→4位→5位と右肩下がり。本拠地のメリットは無に等しかった。
特に右打者にとっては条件が厳しかったため、球団は左中間部を最大10メートルも縮める、甲子園のラッキーゾーン顔負けの措置を取り、現状打破をはかった。皮肉なことに2003年はチームは1901年の球団創設以来ワーストとなる年間119敗を喫したが、ジム・リーランド監督を迎えた06年以降は今季も含めて2度、ワールドシリーズに進出するなど、完全に強豪チームに変身したのだった。
そんなタイガースの成功があってか、来季から本拠地のフェンスを前に出すことを発表した球団がある。シアトル・マリナーズとサンディエゴ・パドレスの2チームだ。
マリナーズのセーフコフィールドとパドレスのペトコパークはリーグ1、2を争う投手有利の球場として知られている。前者はコメリカパーク同様に左中間が、後者は逆に右中間が『渓谷』と呼ばれるほど、とても深い。それでも勝つことができればいいのだが、マリナーズが今季で3年連続最下位という屈辱を味わえば、パドレスも最近5シーズンで勝ち越したのは1度だけという惨状だ。両チームとも貧打は深刻な問題となっており、客足が鈍るのは自然な流れ。本拠地主催試合は閑古鳥が鳴き、今シーズンの観客動員数は、マリナーズがメジャー全30球団のうち25位の172万1920人、パドレスが同20位の212万3721人。メジャー最多のフィラデルフィア・フィリーズが356万5718人だったことを考えると、いかに入っていないかがよくわかる。
打てない、勝てない、入らない。
その三重苦を打破すべく、両球団が時を同じくしてたどり着いた答えがこれまた同じだったという事実はとても興味深い。というか、あまりにも共通点が多すぎて、正直、笑ってしまう。厳しい見方だが、ゼネラル・マネジャー(GM)を筆頭とするチーム編成に携わる人々が、球場の形状を生かしたチーム作りができなかったことを自ら認めてしまったようで残念な気持ちにさえなってしまう。
本拠地の形を変えてまで勝ちにいく姿勢を見せたマリナーズとパドレス。果たして、タイガースのようにラッキーゾーンがチームに幸運をもたらすことになるのだろうか。
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