アメリカのプロ野球界は今、新しいシーズンに向けて各球団が戦力を整える“ストーブリーグ”の真っ只中にある。実力と人気を兼ね備えた選手をめぐる争奪戦は、文字通り、「熱い戦い」となる。
3球団が絡む大型トレードや予想もしなったチームへの移籍など、その楽しみは尽きないが、一番の醍醐味は、争奪戦を勝ち抜いたチームが選手と結ぶ巨額の契約だ。昨オフで言えば、サンディエゴ・パドレスからボストン・レッドソックスへトレードされたエイドリアン・ゴンザレス一塁手が移籍直後に合意した7年1億5400万ドル(約120億円)だろう。また、金額では下回りながらもゴンザレスとは異質の驚きをもたらしたのが、フィラデルフィア・フィリーズからフリーエージェント(FA)となり、ワシントン・ナショナルズと7年1億2600万ドル(約98億円)でサインしたジェイソン・ワース外野手だった。契約内容を聞いたメジャーリーグ関係者は一様にこう言ったものだ。
「そこまで出すほどの選手じゃないでしょ!」。
これら大型契約は複数球団を巻き込んでのマネーゲームに持ち込んだ代理人の手腕によるものだが、この2選手の代理人を務めているのが「スーパーエージェント」と呼ばれているスコット・ボラス氏だ。同氏はほかにも有名選手を顧客にしており、あるスポーツサイトによると、昨オフだけでまとめた契約の総額は4億4450万ドル(約346億円)。代理人の取り分を4%とすると、同氏率いる「ボラス・コーポレーション」には1778万ドル(約13億8千万円)が入ったことになる。メジャーリーグの代理人の中ではぶっちぎりの数字だった。
もちろん、今オフも楽しみな存在はいる。最大の目玉は、ともに一塁手でパワーヒッター、中西部のチームでプレーしていたセントルイス・カージナルスのアルバート・プホルスとミルウォーキー・ブルワーズのプリンス・フィルダーだ。ちなみに、後者はボラス氏の顧客だ。日本の選手では、「最強投手」と言われている北海道日本ハムファイターズのダルビッシュ有投手がポスティングシステム(入札制度)でメジャー移籍を目指すのか、どうか。ここに挙げた3人は1億ドル(約78億円)の金が動くことが確実。プホルスに至っては2億ドル(約156億円)の可能性もささやかれている。11月28日現在、まだ目立った動きは見られないが、水面下で激しいバトルが繰り広げられていることは容易に想像できる。
そんな今年のストーブリーグで僕が興味深く見ているチームがある。
シカゴ・カブスだ。
今季はナショナル・リーグ16球団中上から2番目の総年俸1億2500万ドル(約97億5千万円)もの大金を使いながら下から2番目の91敗を喫し、中地区5位に沈んだ。7月には9年間、チームの編成に携わってきたジム・ヘンドリーGMを解任。さらにシーズンが終わると、レッドソックスのGMだったセオ・エプスタイン氏をGM職の上に位置するチーム編成最高責任者として招へいした。02年オフに史上最年少となる28歳の若さでレッドソックスのGMに就任し、04年と06年に世界一になった実績をもつ同氏にカブスは5年1850万ドル(約14億4千万円)という一流選手並みの条件を提示したのだった。
ひとつ忘れてはいけないのは、レッドソックス時代のエプスタイン氏は、セイバーメトリックスの大家、ビル・ジェームズ氏など、自分より知識も経験も豊富な面々のサポートを得てチームづくりを進めてきた。補強資金も潤沢だった。37歳になった今、ボストンで培った経験を新天地でどう生かすのかは気になるところだ。
特にカブスには前GMが残した“負の遺産”がある。近年はベンチ内でのチームメートとの大ゲンカが日常茶飯事となっているトラブルメーカーのカルロス・ザンブラーノ投手の来季年俸は1800万ドル(約14億8千万円)。怠慢プレーが目立つアルフォンゾ・ソリアーノ外野手に至っては、06年オフに結んだ8年契約のうち3年5400万ドル(約42億円)が残っている。打線の中軸、先発ローテーション、勝利の継投策など、問題は山積している。
エプスタイン氏と合意した直後にマイク・クワーディ監督の任を解き、ミルウォーキー・ブルワーズのデール・スウェイム打撃コーチを監督に抜てきしたカブス。最後にワールドシリーズを制したのは1908年。103年も前の話だ。レッドソックスが04年に世界一になった時、86年ぶりの快挙だったことが大きな話題となった。
さぁ、エプスタイン氏のお手並み拝見。
カブスが大きく変わろうとしている。
カブスが大変だ。
|