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選手会のドナルド・フェア専務理事(右)とMLB機構のバド・セリグ・コミッショナー |
メジャーリーグ選手会のドナルド・フェア専務理事が来年3月末までに退任することをこのほど発表した。
1977年に選手会入りした同氏は30年以上の長きにわたって選手たちの権利保護、生活環境の整備に尽力。現在の職には85年に就任したが、その功績の大きさは、83年に28万9000ドルだった選手の平均年俸が今季は10倍以上の330万ドルにまで上昇している点を見てもうかがい知れる。その一方で、選手たちのドーピング検査の実施に消極的だったことに対する批判の声もある。
そのフェア氏が“最後の大仕事”として携わっているのが、次回2012年のロンドン五輪で正式種目から除外された野球の復帰運動だ。
日本では星野ジャパンの惨敗で大きく報じられた08年北京五輪での野球。しかし、地球儀で見ると、野球熱が高い地域は北中南米と、日本、韓国、台湾のアジアの一部、そして、オーストラリアぐらい。いわゆる、環太平洋地域だ。世界規模のスポーツは決して言えない。
国際オリンピック委員会(IOC)が除外の理由として挙げたのはそれだけではない。莫大な球場建設費用。とりわけ、ロンドンを首都とするイギリスは野球よりもクリケットの人気の方が圧倒的に高いのが現状だ。
今でこそ、メジャーリーガーの禁止薬物違反に対する罰則は厳しくなっているが、IOCからみればまだまだ手ぬるい。現に尿検査はあっても血液検査の実施には至ってない。また、近年、商業主義と揶揄されているように集客力向上や放映権高騰につながる、メジャーリーガーの不参加も要因のひとつだ。
最後の点に関してはメジャーリーグ機構が『世界最強国決定戦』をうたって「ワールドベースボールクラシック(WBC)」を実施。マイナーリーガーしか出場していない五輪から見れば、面白いはずがないのだ。
そんな双方の思惑が複雑に絡み合う中、このほど、スイス・ローザンヌで行われたIOCの理事会に出席したフェア氏は、国際野球連盟(IBAF)会長・ハービー・シラー氏らとともに野球復帰を訴えるプレゼンテーションを行ったのだ。
そこに掲げられた項目が実に興味深い。
▼トッププレーヤーも出場できるよう8カ国による決勝トーナメントを5日間の日程で行うことを提案します。
▼五輪の野球開催期間中はメジャーリーグの試合中継を行わない。メダルが決定する試合の開催日はメジャーリーグの試合を行わない。
さらにはこんな項目も。
▼2016年にはメジャーリーガーとして期待される若い選手たち、たとえば、オランダのシドニー・デ・ジョン捕手や、アメリカ生まれの16歳、ブライス・ハーパー選手らを国の代表として出場させる。
世界各国の野球連盟とともに、メジャーリーグ機構も五輪に協力します。その点を全面にアピールする内容ばかりだった。
そういう意味では、最近、メジャーリーグ界をにぎわせている、アレックス・ロドリゲスの過去の禁止薬物使用への謝罪や、人気選手のマニー・ラミレスの薬物使用への50試合の出場停止などは、「ウチもしっかりやってます」というIOCへの強烈なアピールとの解釈もできる。
現在、16年五輪での復帰を目指すのは野球のほか、ソフトボール、ゴルフ、7人制ラグビー、空手、スカッシュ、ローラースケート、7人制ラグビーを加えた7競技。IOCは8月13日の理事会でそこから2競技に絞込んでいくという。
たとえ、野球がその2競技のひとつに選ばれたとしても、実際問題としてメジャーのトッププレーヤーがどの割合で参加するのかを決めることは容易なことではない。五輪開催時期はペナントレースの真っ只中。WBCでトップレベルの投手たちが次々と辞退したのと同じ現象が起こらないとは限らない。そして、出場を決めても保険や、けがをした際の保障など、クリアにしなければいけないことは多々ある。
メジャーリーグ選手会の次期専務理事には、これまで選手会役員としてフェア氏をサポートしてきたマイケル・ウェイナー氏が就任する予定になっている。
野球の五輪復帰への道は決して平坦ではない。
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