野球の世界最強国を決める「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)で日本が2大会連続優勝を成し遂げたことは記憶に新しい。アメリカにいると感じることはできなかっただろうが、日本の盛り上がりはすさまじいものがあった。
アジア・ラウンドの会場となった東京ドームでの日本戦3試合はすべて完売し、その直前に行われた巨人や西武との強化試合でさえもほぼ満員の入りだった。
テレビの視聴率もすべて20%を突破した。初戦となった5日の中国戦が28・2%と注目度の高さを証明すると、7日の韓国戦は37・8%、9日の韓国戦は両チームとも2次ラウンド進出が決まっていたにもかかわず33・6%と高視聴率を連発した。戦いの場をアメリカに移した16日のキューバ戦、18日の韓国戦はともに21・2%、19日のキューバ戦でも20・2%をマークした。
興奮が最高潮に達したのは19日の韓国戦だ。日本時間20日は春分の日で休日。開始午前10時の試合は平均40・1%という驚異的な数字をたたき出し、昨年8月の北京五輪開会式を上回ってみせた。準決勝のアメリカ戦も好調で、韓国との5度目の対決となった23日の決勝戦は日本では朝からの中継だったにもかかわらず36・4%をマークした。
9試合のうち5試合が韓国、2試合がキューバという対戦システムの“欠陥”は全く影響なし。とにかく日本列島は連日、お祭り騒ぎ。そんな重圧の中、期待どおり日本代表は連覇を果たしたのだから、これは日本野球の実力といっていい。
さて、世界一を決めた翌日の会見でイチロー選手が非常に興味深い話をした。
「向上心ですね。これが集まったチームは強いということです。よくチームにはリーダーが必要だ、というふうな安易な発想があるようですけど、今回のチームには全くそんなものは必要なかったですね」
この話の伏線になっているのが、代表入りが確実となった今年1月、イチローが言った「世代が違っても変わらないものを実感したい」という言葉だ。チームでは上から2番目の35歳で、最年長の稲葉とはわずか1歳しか違わない。最年少の田中将大投手が一回り以上、年下の20歳。野球に関するジェネレーションギャップがあって当然だと思うからこそ「変わらないものを実感したい」と言ったのだった。
代表合宿が宮崎でスタートした2月15日から優勝を決めた3月23日まで、過ごした1カ月余りの時間。最後は最高の形でフィナーレを迎えたわけだが、イチローが使った「安易な発想」の言葉にイチローが持つ哲学が見える。
チームの中に全体をまとめるリーダーがいるに越したことはない。しかし、不可欠な存在ではない。「俺たちはファミリーなんだ」「みんなで頑張って行こうぜ」。“口だけ番長”的なリーダーならいない方がまし。選手一人ひとりに野球をうまくなろう、チームを強くしていこうという「向上心」があれば、自然と強い団結力は生まれる。チームを束ねる選手なんて必要ない。そんななのは監督だけで十分なのだ。
「それぞれが向上心をもって何かを得ようとする気持ちがあれば、そういった形は全くいらない。むしろ、ないほうがいいというふうに思いました。僕は今回、外からリーダーであるとか、そういう存在であるというふうに言われましたけど、実際には、そういうものは全くなかった。この向上心というものさえあれば、チームはいくらでも可能性を生み出す、そんなふうに思いました」
かといって、イチローは自分だけのことしか考えずにやっていたかと言えば、そうではない。試合前の円陣では中心で仲間を鼓舞し、練習の合間やクラブハウスでは積極的に若い選手たちとコミュニケーションを取った。そんな姿に周りの選手たちはイチローの「リーダーシップ」を感じたていのは紛れもない事実だ。
イチローは、確かに侍ジャパンのリーダーだった。
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