もしかしたら、メジャーリーガーの中で最も日本に興味をもっている選手かもしれない。
7月8日にトレードでオークランド・アスレチックスからシカゴ・カブスに移籍してきたリッチ・ハーデン投手は大の親日派だ。
カナダ・バンクーバーの西に浮かぶビクトリア島で育ったハーデンが、日本に興味を持ち始めたのは6年前。日本の滞在経験をもつ友人の話を聞いてからだった。メジャーリーガーの中には、日本でプレーしたことがあったり、これから日本でプレーしたいとの理由で日本に関心をもつ選手はいるが、ハーデンの場合は違う。
「日本人がとても謙虚で、他人に敬意をもって接するということを友人から聞かされて、その国民性がとても好きになった。日本のことをもっと知りたくなったんだ」
性格は温厚。その話し振りはとてもソフト。クラブハウスでも大騒ぎするようなタイプではない。
「アメリカには自分を主張したがる人間が多すぎる。見栄を張るというか、俺はお前よりも上なんだというところを見せつけようとする。そういうのはどうも好きになれない」。
もちろん、日本人の中にもド厚かましいエゴの塊のような輩はいる。しかし、その根底にあるのは、謙虚さであり、奥ゆかしさであると僕は信じている。ハーデンの心に響いたのはそこだった。
だから、会えば日本に行ってみたいと言っていた。現にアスレチックス在籍時の昨オフには友人と日本旅行を計画していた。その矢先、アスレチックスがボストン・レッドソックスと日本で今季開幕戦を行うことが決定した。
果たして、ハーデンは初めて日本の地を踏み、開幕シリーズ第2戦に登板。6回3安打1失点の好投でシーズン初勝利を挙げた。
実は日本行きに際してハーデンはある目的をもっていた。それは、日本刀を手に入れることだった。
「サムライに興味がある。実家にも日本刀が1振りあり、機会があれば欲しいと思っていた。刀には歴史がある。歴史あるものにはとても高貴なものを感じるんだ」。
通訳を連れて、都内の骨董屋に入った。安い買い物ではないし、海外へ持ち出すことも容易ではないことも聞いていた。さまざまな手続きをへて、念願の刀を購入できた。その経緯を満面笑みで説明してくれた。
そんなハーデンが移籍後、上々の滑り出しを見せている。
初めてカブスのユニホームを着て登板した7月12日のジャイアンツ戦で5回1/3を投げて5安打無失点。球宴明けの同21日のダイヤモンドバックス戦ではランディ・ジョンソンと投手戦を演じ、7回をソロ本塁打1本のみの1安打1失点。さらに5日後のマーリンズ戦でも5回を2安打1失点と好投した。
いずれも打線の援護がなく、勝ち星はつかなかったが、3試合とも10個の三振を奪った。1953年以降の球団記録では、3試合連続2けた奪三振は、2003年のケリー・ウッドとマーク・プライアだけという“快挙”だった。
05年以降はけがに泣き、満足なシーズンを過ごしていないハーデンだが、健康ならば、年間最優秀投手に値するサイ・ヤング賞の候補に挙がるほど能力は高い。それはこの3試合が証明している。
激しいプレーオフ争いを繰り広げているカブス。ハーデンがキー・プレーヤーであることは間違いない。笑ってシーズンを終えられることを願う。
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