地中から掘り出されたボロッボロのユニホームに17万5100ドルもの値がついた。実際に試合で着用されたものでもなければ、ベーブ・ルースやジョー・ディマジオといった伝説の選手のものでもないにもかかわらず、だ。
eBAYに出品されたその代物への入札数は実に282件。落札した自動車販売店の経営者は「もっと高い値がつくかと思った」と語ったそうだ。
日本円に換算して約1800万円!
にわかに信じがたい話だが、事実だ。
なぜか?
そこには様々な要素が複雑に絡み合っている。
掘り起こされた場所は、来年オープンするヤンキースの新球場の建設現場。
掘り起こされたユニホームは、レッドソックスの「34」。メジャーを代表するスラッガー、デービッド・オーティスのものだ。
ヤンキースとレッドソックスは言わずと知れた、米メジャースポーツ界で最も強烈なライバル関係にある。
そこに、ユニホームの価値を高める強烈な“スパイス”が加わる。
地中に埋めたのは、ヤンキースのおひざ元、ブロンクス出身でありながら、レッドソックス・ファンという球場建設現場の作業員。その理由が、ヤンキースが今後30年間、優勝できないようにするための“のろい”だと言うのだから興味をかき立てられる。しかも、この事実をニューヨーク・ポストが大きく報じるや、ヤンキースがその作業員を提訴すると言い出す始末。即座に掘り起こされたユニホームはヤンキースからレッドソックス主催の慈善事業、小児がん基金の「ジミー・ファンド」へ寄付された後、オークションにかけられたのだった。
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ヤンキース新球場建設現場から掘り出されたレッドソックス・オルティスのユニホーム |
全米の収集家が飛びつくのは自然の成り行きだが、その落札者にしたたかな計算があったのでは?とうがった見方をしてしまう。というのも、その一連の“騒動”はニューヨークやボストンの地元紙だけでなく、AP通信が世界に打電していた。当然、落札者の氏名も大きく報じられるのは容易に察しがついた。実際に記事中には、彼の職業が車のネット販売会社の経営者だったため、ご丁寧にウェブサイトのアドレスまであった。ここまでくれば立派な広告。ユニホームが販売店のショーウィンドーに飾られるとなれば、客も集まる。入札金は寄付に当たるので恐らくタックスの控除の対象にもなるだろうから、一石二鳥どころか、三鳥にも四鳥にもなったはずだ。その経営者が「安い買い物」と言わんばかりに「もっと高い値がつくかと思った」と言ったのは素直な感想だったに違いない。
元来、スポーツグッズ収集家というものは2種類しかないものだと思っていた。個人で楽しむ者と、売買をビジネスにする者。しかし、今回の一件で新たなタイプの“収集家”といることに気付かされた。
一介の現場作業員のいたずら心が1800万円もの大金を動かすニュースにまで発展した。訴訟問題に巻き込まれたこの作業員は少し気の毒だが、一番迷惑しているのは、無断で自分のユニホームを埋められたオーティスかもしれない。
彼は4月26日現在、打率・177と大スランプに直面している。
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