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日本が誇る世界一の男が負けた。
独立記念日の7月4日。ニューヨークで行われたネイサンズ・ホットドッグ早食い競争で7連覇を狙った小林尊(たける)が、サンノゼ出身の大学生、ジョーイ・チェスナットに敗れたのだ。
12分間で何本のホットドッグを胃に詰め込めるかというシンプルな競技。日本ではバラエティのカテゴリーにくくられている大食い大会が、ここアメリカではスポーツとして認知されていることに少し戸惑ってしまう。
大会当日はその模様をライブでテレビ放映。CNNなど各局がその日の目玉ニュースとして繰り返し伝えるほどの注目度の高さ。スポーツ専門チャンネルのESPNも詳細を報じ、大会出場者はフードファイターと呼び、一人のアスリートとして扱っていた。プロレスの結果を報じることのない同局がこの競技をスポーツとみなすのは、自分の限界に挑戦するガチンコ勝負だからだろう。さらに、ベースボール・カードでおなじみのTOPPS社が「スペシャル・アスリート」として小林のカードを発売している。ここまでくれば、もう異論を挟む余地はない。
一般的に大食い大会、早食い大会から想像するのは、男が巨体を揺らしながら次から次へと目の前にある食べ物を食い散らかすシーン。口のまわりをべとべとにしてただひたすら食べまくる。見世物的でもある。
ところが、小林の姿を見れば、そのイメージは一掃される。
身長173cm、体重75kg。年齢は29歳なので、美少年は言い過ぎまでも、とにかく、美しさが備わっているのだ。金髪、きれいにそろえられた眉、端整な顔立ち、パンプアップされた肉体。食べ物を手に取り、口へ運ぶまでの両腕の筋肉の躍動感には思わず、見とれてしまう。
きれいに食べる。
これこそが、小林が目指すところなのだ。ただ、速ければ、ただ、たくさん食べればいいというものでもないのだ。競技中の小林の動きはしなやかで、とてもリズミカル。「TSUNAMI(津波)」のニックネームをもつが、想像を絶する競技の過酷さを感じさせないところにそのすごさがある。
見る者に不快感を与えるようではアスリートではない。アスリートには見る者を魅了する能力も備わっていなければいけないと僕は思う。もし、それがアスリートの定義の一つだとすれば、大食い大会をスポーツとして認識させた小林の貢献度ははかり知れない。
話をホットドッグ・コンテストに戻そう。今大会は小林にとって逆風の連続だった。アメリカでも大々的に報じられていたが、春先からあごの関節を痛める顎関節症で口がしっかりと開かない状態に陥り、一時は欠場も考えたほど。さらに、3月には母親を亡くし、精神的なダメージも負っていた。完全に不利な状態で大会に臨んだのだった。
結果は63本対66本。終始、追いかける展開で終了間際に1本差まで迫ったが、最後に吐き出してしまい、勝敗は決した。それでも準優勝。表彰台から見せたさわやかな笑みが印象的だった。
来年はリベンジの年。彼ならやってくれると信じている。
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