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オールド・ルーキーの貫禄 先月号で取り上げたヤンキースのロジャー・クレメンス投手が6月9日のパイレーツ戦で今季初めてメジャーのマウンドに上がった。当初は4日に登板する予定だったが、右足付け根に違和感を訴えてスケジュールを変更。満を持して臨んだ当日は、5万4千人を呑み込んだ本拠地、ヤンキースタジアムで6イニング、108球を投げ、5安打7奪三振3失点の内容で通算349勝目を手にした。
その後も中5日のローテーションを守り、15日のメッツ戦、21日のロッキーズ戦に登板。勝ち星には恵まれなかったが、クレメンスの復活に触発されたかのようにチームも5日から14日まで9連勝の快進撃で勝率5割復帰。今年45歳を迎える大ベテランの獲得がプラスの流れを生み出す格好となった。
そのクレメンスはメジャー現役最高齢投手だが、日本人大リーガーに限ると、今季の最高齢は4月で39歳になったパイレーツの桑田真澄投手となる。
昨季まで読売ジャイアンツに所属。エースとして一時代を築いたが、この4年は振るわず、20年来の夢だった大リーグ挑戦を決意した。パイレーツとはマイナー契約を結び、招待選手としてスプリングトレーニングに参加。ところが、開幕1週間前に登板したオープン戦で右足首をねん挫。2カ月半のリハビリをへて、ようやく、6月2日にパイレーツ傘下の3Aで復帰を果たした。
そこからが速かった。マイナーでの3試合を無難にこなすと、早々とメジャー昇格の朗報が届いた。デビュー戦となったヤンキース戦では、巨人時代の同僚、松井秀喜外野手とも対戦(結果は四球)。先々月号で取り上げたアレックス・ロドリゲス内野手に2ランホームランを打たれて“洗礼”を受けたが、その後の4試合は無失点に抑えている(6月22日現在)。
「ここで投げられるだけで幸せなんです」。「失うものは何もない」。桑田が口にする言葉を文字にすると、初々しさや“はい上がってきた感”が強いが、実際には、その表情は穏やかで、口調もゆったりしている。「39歳のメジャー挑戦」や「オールドルーキー」という言葉の響きから連想する「悲壮感」や「切迫感」は全くなく、逆に「貫禄」さえ感じられる。
それを強烈に印象づけたのが、6月22日のマリナーズ戦。日本でも大々的に報じられたイチロー外野手を空振り三振に仕留めた試合。04年に大リーグ年間最多安打記録を樹立した打者を手玉に取る圧巻の投球だった。
試合後、桑田は言った。
「どういうふうに攻めていこうか。配球を頭の中で考えてキャッチャーに初球はこれから入ろう、というところまで下準備をしてマウンドに上がった。なんとか、内野ゴロに打ち取られたな、と思ってました」
三振を奪ったのは、ワンバウンドするカーブ。「(打球が)センター方向へ来れば、必死に自分が取りに行こうと思いました。どれだけ反応できるか、自分でも用意してました」。つまり、打たれた後のことまで想定して投げたというわけだ。
日本で培ってきた21年の経験がその投球に詰まっている。本人は「余裕はない。いっぱいいっぱいでやってますよ」と言うが、そんな言葉も冗談にしか聞こえないほどのゆとりが見える。
全米での知名度は、もちろん、クレメンスには遠く及ばない。しかし、味のある投球を積み重ねていけば、「KUWATA」の名前はきっと、大リーグファンの間に浸透していくはずだ。
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