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何年ぶりだろうか、こんなに真剣に大相撲を観たのは。
僕は毎年、年末年始に日本に帰国しているが、今回は例年よりも長く滞在したため1月7日から始まった初場所をテレビで観戦する機会があった。チャンネルを合わせたのは、中入り後からだったが、実に面白いのだ。仕切り、立ち合い、勝ち名乗り、力水、・・・。迫力満点の勝負は言うに及ばず、画面に映し出された力士たちの一挙手一投足がとても興味深かったのだ。
相撲通(つう)とまではいかないが、父親がファンだったこともあって、子供の頃は周りの友人よりも相撲をよく知っていた。特に体の小さな力士の応援には熱が入った。僕が好きだったのは、千代の富士。その精悍な顔立ちからウルフの異名を取った大横綱だ。筋骨隆々、鍛え抜かれたその体で二回りも三回りも大きな相手の突進を受け止め、前褌(まえみつ)をつかむと無類の強さを発揮した。その豪快な投げ技は、胸がすくような鮮やかなものだった。本当にカッコよかった。
だからこそ、貴花田(現貴乃花親方)に敗れ、世代交代を印象づけた一番には複雑な思いをした。「体力の限界!」と言った後、口を真一文字に結んだまま目に涙をにじませた引退宣言は今も覚えている。
その後の若貴ブームで大相撲は国技にふさわしい空前の盛り上がりを見せたが、大相撲への興味が薄れ始めたのはその頃から。社会人の多忙な生活にテレビを見る機会がなくなったこと、そして、世間をにぎわせた八百長疑惑も相撲から遠ざかる一因になった。いつしか、僕の中では、大相撲はスポーツではなく、伝統芸能のカテゴリーにくくられていたのだった。
昨今は外国人力士ブームだと聞いていた。現にこの初場所の番付を見てみると、幕内42力士のうち12力士が外国出身。唯一の横綱、朝青龍はモンゴル出身、5大関の中にはブルガリア生まれの琴欧洲、モンゴル生まれの白鵬がいる。小結の露鵬も同じくモンゴル出身。合計10人いる三役以上のうち4人が外国人に占められているのだ。
ところが、ひとたび取り組みが始まればそんなことはどうでもよかった。「食わず嫌い」という言葉があるが、これは「観ず嫌い」。その日は、たまたまチャンネルを変えていた時にぶつかったのだが、懐かしさも手伝ってテレビ画面に目は釘付け。子供の頃、じっれたく感じていた立ち合いの時間までもが面白く感じられたのだ。
中でも東の正大関琴欧洲と20歳の新小結稀勢の里との一番には「ほぅ」とつぶやいてしまった。大関が立ち合いで左に変わってはたき込み。相手の意表を突く頭脳的な作戦ではあったが、解説者は思わず「残念です」と一言。実況も「珍しく場内からブーイングです」と伝えるほど、場内は騒然とした。結びは横綱朝青龍が豪快な上手投げで小結露鵬を退け、同郷対決に完勝した。これらの現状に、もはや相撲は国技ではなくなってしまった、と嘆く人もいるだろうが、野球を国技とする米国では、全メジャーリーガーのうち外国出身選手は30%を超えている。
前向きにとらえれば、大相撲がグローバルなスポーツになったということ。土俵に上がる力士たちが外国人であろうと、それが真剣勝負ならが誰もが興奮するし、面白いと感じるはずだ。
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