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西武からポスティングシステム(入札制度)で大リーグへの移籍を目指した松坂大輔投手がボストン・レッドソックスと6年5200万ドル(約60億円)で合意した。独占交渉権の落札額5111万1111・11ドルと合わせると、1億ドル(約117億円)を超える“ルーキー”としては空前絶後の数字となった。
入団会見の席上で松坂とセオ・エプスタインGMらレッドソックスのフロント陣が見せた満面の笑みが印象的だったが、その会見を見守った松坂の代理人、スコット・ボラスの交渉は成功と呼べるものだったのか、は興味深いところだ。
約1カ月に及んだ契約交渉。ボストンの地元紙の報道を総合すると、序盤の争点は契約年数だったようだ。元来、同システムで移籍した場合は新人扱いとして6年間の保有権を球団がもつことになっているが、ボラスは2、3年の短期契約を結び、満了後はFA権の取得を主張したとされている。FAになることで、他球団との交渉を可能にし、マネーゲームに持ち込むことが狙いだ。代理人の取り分の相場は年俸総額の3〜5%。現在、26歳の松坂。3年が経過してもまだ20代。再び争奪戦になる可能性は十分に考えられる。
その時点で僕が心配したのは、選手本人にとって短期契約が重圧になるのでは、という点。松坂にとって大リーグが目標だったとはいえ、アジャストしなければいけないことが野球だけではないからだ。1年目で軌道に乗ればいいが、けがなど不測の事態に見舞われた時に短期間で挽回するのは難しい。代理人には魅力的なアイデアかもしれないが、選手にはリスクがあるような気がしてならなかった。
案の定、時間の経過に伴って争点は契約年数から年俸へと変わる。今度は、球団側は1年平均800〜900万ドルを提示したのに対し、ボラスが1年平均1500万ドルを主張したという。球団が求めた契約年数は6年。これは短期契約→FAの目論見が崩れたことを意味していた。ボラスは「日本人投手はもっと評価されるべきだ」として、メジャーでも過去にロジャー・クレメンス、ランディ・ジョンソン、ケビン・ブラウンの3人しか手にしていない大金を要求したわけだが、これが交渉長期化の原因とされている。
同代理人は「西武に戻ることになるかも」と交渉決裂をにおわせる発言をし、日本のメディアも大騒ぎする結果となったが、代理人の強硬姿勢により松坂にマイナス・イメージがつきまとうことを心配する声もあった。実は、本当に交渉が決裂してしまえば、最も損失をこうむるのはボラスの方。その取り分がゼロになるばかりか、不信感を抱いた松坂が自分の手から離れていく可能性もあるからだ。
結局、1年平均約867万ドルと球団の提示条件に限りなく近い内容で合意。それでもこの数字は松井秀、松井稼両選手を上回る破格の数字なのだから、松坂の評価の高さがうかがえる。
今回の契約では、6年5200万ドルのほかに成績に応じて加算されるインセンティブ(出来高払い)や付帯条件として日米往復チケットなどを勝ち取ったが、日本の一流選手ならだれもが要求するもので、特別に目を引くものはない。ただ、松坂をクライアントにしたことで改めて全世界にその名をとどろかせることができたという点では“大成功”だったといえるだろう。
松坂にとって、今後6年間、契約問題を気にすることなく、野球に集中できるのは何よりも大きい。こうして考えてみると、ボラスの起用はプラスだったのかは疑問が残る。
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