|
複雑な気持ちになった。
スポーツ専門チャンネル、ESPNのホームページが実施したアンケート結果を目にした時だ。「大リーグは薬物使用規定違反選手の記録を削除すべきか?」との問いに「YES」と答えた人が68・1%もいたのだ。
大リーグではここまで8人の違反者(8月25日現在)が出ているが、このアンケートを実施するきっかけとなったのが、薬物検査で陽性反応を示したために8月1日に10日間の出場停止処分を言い渡されたオリオールズのラファエル・パルメイロ選手だ。その発表から約2週間前の7月15日のマリナーズ戦でメジャー通算3000安打を達成。史上4人目の3000安打&500本塁打の快挙を成し遂げたばかりとあって波紋を広げたのだった。
将来はホール・オブ・フェイム(野球殿堂)に入るのは確実と言われているスター選手。ステロイド使用疑惑で3月に米下院での公聴会に召還された際には人差し指を突き出し「決して使用していない」と言い切った経緯もある。全米のメディアはその日のトップ項目として一斉に報道。その衝撃度はとてつもなく大きなものだった。
その日のうちにパルメイロに殿堂入りの資格があるのか、という議論が巻き起こった。8月下旬にはナショナルズの監督で、選手として殿堂入りを果たしているフランク・ロビンソンが「個人的な意見」と前置きしながら「違反者の記録は削除すべきだと思う」と発言。議論はさらにヒートアップした。
そのロビンソン発言を受け、前述のアンケートが実施されたわけだが、実際にその案が採用され、パルメイロがメジャーデビューした86年から20年という歳月を費やして積み上げた3020本の安打と569本の本塁打、1835打点(8月24日現在)というこれらの数字を消された時、人々は平然としていられるのだろうか? ルールを破った者が罰せられるのは当たり前。分かっていてもどうも後味が悪すぎるのだ。
では、前号の「大リーグ反則技」で取り上げたように、ボールやバットに細工をして成績を伸ばした選手たちはどうなのか。自らの肉体と道具の違いこそあれ、同じ
”ずる“をしたことに変わりはない。現に引退後にボールに細工をしたことを告白している大投手もいるが、「記録を削除しろ」とまではなっていない。
大リーグから処分が発表された直後、パルメイロは「意図的にステロイドを接種したことはない」と釈明。14日に地元・ボルチモアで予定されていた3000安打記念セレモニーも自らの意思でキャンセルした。ただ、今季から抜き打ちで薬物検査を実施することはオフの時点でわかっていたこと。にもかかわらず、常用しているサプリメントをはじめ、自分の体内に入れるものが何であるのかを把握していないのは、プロとして恥ずべきことだ。
9月で41歳。引退の足音が近づいてくる中、1日も早く記録を成し遂げたいという焦りもあったにちがいない。これらの記録が削除された時、パルメイロに残されるものは「嘘つき」というレッテルだけしかない。
当然という気持ちとさびしい気持ち。気持ちは複雑だ。
|