誰でも耳にした事のあるエコノミークラス症候群。今月はこの病気について説明します。
日本ではすっかり定着したエコノミークラス症候群と言う病名ですが、これは正式な病名ではなく、本来は深部静脈血栓症(下半身の静脈に血栓が起こる状態)と肺動脈塞栓症(血栓が下肢の静脈から肺の動脈に流れてきて血管が詰まってしまう状態)等の病気をまとめて表現した状態をエコノミークラス症候群と呼んでいます。調べによると成田空港付近の病院では年間平均100〜150人位の方がこの病気で治療を受けているようです。もちろんこの方たちが全員旅行後に発病したかどうかは定かではありませんが、やはり長時間の旅行後に起こりやすい事からこの名称が定着したようです。
どういう病気でしょうか?
健康な状態であれば、血液は体の中をスムーズに流れ、血管内で固まってしまう事はありません。しかし何かの原因で血の流れが悪くなると、流れの遅い静脈内で血が固まり、血栓が出来てしまいます。エコノミークラス症候群は、下肢の静脈に血栓が出来る状態から始まります。この血栓がその部分から離れてしまうと、静脈を伝わって最終的には肺動脈へと移動し、肺動脈が詰まってしまい、肺塞栓という状態に至る事があります。この場合、血栓の大きさ、数、または肺の場所に
よって症状が異なりますが、息切れ、呼吸困難、胸痛、最悪の場合は死亡してしまう事もあります。
どういう人が病気になりますか?
長時間同じ姿勢でいる事が多い場合は全てリスクとなります。飛行機の中で長時間座ったままでいると足が曲がった状態でいるので血流が悪くなり血栓が出来やすくなります。また長時間のドライブもリスクとなります。その他には寝たきり老人、術後(特に腰、股関節などの下半身の手術)、脱水状態、癌を患っている方、喫煙者、避妊ピルを服用中の女性なども血栓が出来るリスクが高くなります。また、これらのリスクが幾つか重なるとさらに発生率が高くなります。
症状は?
片方のふくらはぎ、または太ももに起こる痛みが代表的で、むくみを伴うことが多いです。特徴的なのは両足に同時に起こることはまず無く、片足だけだと言うことです。但し軽症の場合は無症状の場合もあります。痛みは筋肉痛とよく間違う事がありますが、左右の足を比べてみて片方だけがむくんでいる場合は要注意です。
診断は?
診断は比較的簡単で、罹患部の超音波検査で殆どの場合診断がつきます。
治療法は?
一番重要なのは下肢の血栓が肺に移動する前に治療することです。下肢に出来る血栓だけでは命に関わることはありませんが、肺に血栓が移動すると様々な症状が現れ、要入院治療となり、重症の場合は死に至ることもあります。旅行後に疑わしい足の症状が表れた場合はすぐに近くの医療機関で受診して下さい。検査を行い、診断が確定した場合は抗凝固剤を投与または内服を開始し、数ヶ月間の間、治療が必要となります。
予防法は?
- 一番大切なのは旅行中出来るだけ動くようにすること。座りっぱなしの姿勢で長時間過ごさないことです。満席の機内ではちょっと面倒だと思われがちですが数時間に1度は立って歩き、下半身をストレッチするように努力をしてください。
- 水分を十分に取る事。血液は簡単に説明すると、水分と血液細胞から出来ています。水分が多ければ血液が薄くなり、血が固まりにくいわけですが、逆に水分が不足していると極端に言えば血液がどろっとなる訳ですから固まりやすくもなります。機内は乾燥していますので、それだけでも脱水気味になりやすい環境なのです。搭乗する2〜3日ぐらい前から出来る限り体調を整え、水分を十分にとる様に心掛けてください。また機内でも十分に水分を取ってください。その他にアルコール、カフェイン
類は利尿効果があり、脱水を起こしやすいので、旅行中はもちろんの事、前後2〜3日ぐらいの間は控えめにするように心掛けてください。
エコノミークラス症候群と聞くとエコノミークラスに乗っている人だけがなる病気だと勘違いしがちですが、実際はそうではありません。ビジネスクラスやファーストクラスに乗っている方でも発病症例はあります。結論としては長時間同じ姿勢で動かない状態でいれば誰でも発病する確立はあります。長時間の飛行、長時間のドライブ、病気、怪我のための寝たきり状態などが代表的な例です。ただエコノミークラスの場合は足を伸ばす事が困難なため、膝を曲げて下ろした状態でいる事や、まわりに人が多いのでつい席を立ったり、ストレッチしたりするのが困難な事からこのような名前がついたようですね。
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